共同通信
奈良県天理市にある「セブン―イレブン天理成願寺町店」。一見何の変哲もないコンビニだが、名作絵本から専門書まで、個性が光る一冊を並べた書籍コーナーが「コンビニらしからぬ選書」と話題だ。オーナーの楢原高志さん(46)は「日常空間で、思いもよらない本との出合いを生み出せたら」と狙いを語る。(共同通信=大森瑚子)
週刊誌などが並ぶ通常の書籍コーナーの隣に本棚がある。色鮮やかな海外の絵本に、現代の働く女性を詠んだ短歌集、パレスチナ問題を説いた新書―。硬軟織り交ぜたセレクトに、多くの人が思わず足を止めている。
きっかけは約2年前だった。地元の農家から仕入れた野菜を販売するなど、コンビニの枠を超え地域密着型の挑戦を続けていた楢原さん。「日常の中に異空間」をテーマに新しいコーナーを作ろうと、スタッフとアイデアを出し合った。
「本を軸にするのはどうですか」。当時アルバイトとして働いていた読書好きの大学生がつぶやいた。扱う本をより多様にすれば、日常に小さな刺激を生み出せるかもしれない。すぐに本棚を用意し、協力してくれる書店を探し始めた。
大手の書店に断られる中、たどり着いたのはお隣の大和郡山市にある個人書店「とほん」。店主の砂川昌広さん(48)が選び抜いたラインアップが評判の本屋だ。「この人なら一緒に面白がってくれるのではないか」と扉をたたいた。
快諾した砂川さんが、2021年秋から月に1度、選んだ本を入荷することになった。初めは手軽に読める本を意識して並べたが、歴史書など専門的な本も人気があると気づいた。
砂川さんは「コンビニに来る理由はさまざまだが、それぞれにひっかかる要素があれば」と現在の多様な選書に行き着いた。
最近は、近くの保育園のスタッフや地域住民が推薦する本を紹介文とともに並べるなど、新たな交流も生まれている。
楢原さんは「食欲を刺激するものだけでなく、知的好奇心を刺激する仕組みもあるコンビニにしたい」と語った。
▽コンビニの書籍販売
書籍の販売面積が全国的に縮小傾向にある中、コンビニ大手の一部は書店空白地域で実験的に「町の本屋」の機能を持たせた店舗をつくる取り組みを始めている。
ただ、出版取次大手の日本出版販売(日販)がコンビニに書籍や雑誌を届ける事業に関し2025年2月をめどに終了すると発表。取引が滞ることが懸念されている。