あるのか初の女性大統領誕生  ニッキー・ヘイリーはトランプに勝てるのか? (下)

あるのか初の女性大統領誕生 
ニッキー・ヘイリーはトランプに勝てるのか? (下)

(この記事の初出は2024年1月17日)

ウォール街の支持を受け政治資金を確保

 ヘイリーが躍進できた大きな要因に、ウォール街の大富豪たちの支持を取り付けたことがある。
 大富豪のチャールズ・コークが設立した保守系政治団体「繁栄のための米国民アクション」(AFP:American For Prosperity Action)は、昨年11月末に、共和党予備選でのヘイリー支持を打ち出した。これは、10月にヘイリー支持を表明したJPモルガン・チェースのCEOジェイミー・ダイモンに続くものだった。
 コークは死去した弟のデイビットとともに「コーク兄弟」として有名で、共和党の有力な資金源であり、最大のサポーターである。コークは当初、デサンティスを支持するものと思われていた。というのは、ウォール街としては、トランプは言動が過激すぎてビジネスを混乱させるだけと評価されてきたからだ。
 AFPアクションの上級顧問エミリー・ザイデルは、ヘイリー支持を表明した後、3月のスーパーチューズデーまでにヘイリー支持の広告キャンペーンに数百万ドルを提供し、「私たちは彼女を次期米国大統領にするために全力を尽くす」と述べた。
 AFPアクションに続いて、ウォール街の有力者は次々にヘイリー支持を表明した。著名投資家のスタンリー・ドラッケンミラー、ヘッジファンド「シタデル」の創業者ケン・グリフィン、ホームセンター大手「ホームデポ」の共同創業者ケン・ランゴーンなどだ。

政治信条がなく、すべてはディール(取引)

 では、ここからはヘイリーとトランプを比較してみたい。どちらがアメリカ大統領にふさわしいかという視点ではなく、世界にとって、日本にとって、どちらが好ましいかという比較だ。
 トランプが大統領に返り咲いたら、取り返しのつかない事態に陥る。こう警告し続けているのが、2018年春から2019年秋までトランプ政権で国家安全保障問題担当のアドバイザーリー(大統領補佐官)を務めたジョン・ボルトンだ。
 彼は、トランプには政治信条がないとし、「物事すべてを損得勘定で考える。しかも、すべてを個人的なディール(取引)にしてしまい、とても危険な人物である」とメディアで繰り返し述べている。
 また、彼はこうも言っている。
「トランプは合衆国憲法を尊重する気などみじんもない」

トランプはアメリカの世界覇権を失墜させる

 ボルトンと同じくサマーズ元米財務長官(現ハーバード大教授)も、トランプか返り咲きの危険性を訴えている。
 サマーズは、トランプ再選は「冷戦に勝利して以来、第2次世界大戦に勝利して以来、アメリカが持っていた道徳的権威の喪失を意味する。そうなれば、世界の安定性は大きく損なわれるだろう」と話している(1月6日、ロイター記事)。
 サマーズはアメリカのエリートとして、トランプによってアメリカが世界覇権を失うことを恐れているのだ。
 前回のトランプ大統領就任時、NYダウは「トランプラリー」と呼ばれて上昇、金融市場は好調に推移したことがあった。
 しかし、サマーズは「ポピュリスト的指導者の在任期間が長くなるにつれて状況が変化することを歴史が示している」とし、「イタリアのムッソリーニ政権の最初の数年間も、アルゼンチンのペロン政権も市場は好反応を示したが、どちらも大暴落で終わった」と述べている。

パリ協定再離脱で人類の未来は最悪に!

 トランプの言動から見えてくるのは、自分はディープステートと戦っているヒーローだという自己陶酔だ。そのため、彼は世界を個人的なディールで動かす。つまり、国際法などどうでもいいので、ウクライナ支援を打ち切り、同盟国からは上納金を取ろうとするだろう。
 前回同様、日米同盟を盾にして日本からはさらに上納金を取ろうとするだろう。そして、欧州にはNATO離脱をちらつかせて日本と同じことを要求する。対中政策も同じで、関税をさらにふっかけ経済安全保障政策を維持する。
 最悪なのは、彼が地球温暖化を「フェイク」と思っていることで、再度パリ協定から離脱するのは間違いない。そうして、温暖化対策予算を削り、EV補助を打ち切り、クルマをガソリン車に回帰させてしまうだろう。これは、人類の未来に対して最悪の結果をもたらす。
 しかし、ヘイリー なら、少なくともパリ協定離脱はない。トランプと違って、ウクライナを見殺しにしたりはしない。

 

(つづく)

 

この続きは「あるのか初の女性大統領誕生  ニッキー・ヘイリーはトランプに勝てるのか?(完)」に掲載します。 

※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

 

 

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