津山恵子のニューヨーク・リポートVol.27
日本がもし戦争を始めたら
戦争大国アメリカの異常な光景
「アメリカ滞在中に子どもを産んで、パスポートを取得させた方がいいよ」
岸田文雄首相が能登半島地震をそっちのけで、憲法を改正し「緊急事態条項」を入れる話を持ち出したため、駐在の人にこんなことを言い始めた。
日本は改憲して戦争を始めるかもしれないよ。でも、戦争に行きたい人はいない。改憲を叫んだ政治家も戦争に行かないから、徴兵制になるよ」
「子連れで来ているなら、海外の学校にできるだけ長く行かせて、そのまま就職させた方がいい」
自民党改憲案によると、内閣総理大臣が法律並みの効力・強制力がある「政令」を出せるようになる。政令は基本的人権をも制限することができる。「戦争、紛争に参加する」「男子18歳以上を徴兵する」「贅沢は避けて」という政令が可能になるわけだ。改憲は阻止しなければならない。
元国連職員で「カブールノート 戦争しか知らない子どもたち」(幻冬舎)の著書がある山本芳幸氏(@よしログ)が最近、Xにこうポストした。
日本も改憲して緊急事態条項なんて入れられたら、『海外に留学している人や働いている人たちは日本に戻って兵役に就かなければならない』って政令、あっという間に出しそうだな。帰ってこない奴は、パスポート失効」と。背筋が寒くなる。
常に戦争と向き合っているアメリカに住んで20年。街の至るところに戦争を肌で感じる異常な光景がある。私のアパートから2ブロックで第1次大戦戦没者の碑、3ブロックで朝鮮戦争の碑と、白い十字架が延々と並ぶ広大な戦没者墓地もある。かと思えば、5ブロックで陸軍のリクルートセンター、高架線線路のビルボードには陸軍、海軍の宣伝が貼られている。
生き残った退役軍人(ベテラン)の余生も悲惨なものだ。マンハッタンを歩けば、巨大なベテラン病院が目に付く。戦闘のトラウマから家族を離れホームレスとなり、少年らに火を点けられたベトナム戦争ベテランに会った。
「何かできることは?」と聞くと「ベテラン病院に来て、みなと話をしてほしい。天気でもエンタメでも何の話でもいい。みんなフツーの生活や話をしたがっている。でもできないんだ」
リクルートの一環として兵役の後、大学費用を負担する仕組みがある。この制度を利用した20代の若者3人に話を聞いたことがある。イラクなどでの兵役で、2人が簡易爆弾で上官や同僚を目の前で失った。1人は、雨の塹壕に閉じ込められて溺れそうになった。その話をする時、誰もがみるみる顔が赤くなり、涙を堪えていた。1人はカフェで席を立って長いこと帰ってこなかった。みな、深い傷を負っている。
こうした人々を量産する国になってはいけない。
(写真と文 津山恵子)
津山恵子 プロフィール
ジャーナリスト。ザッカーバーグ・フェイスブックCEOやマララさんに単独インタビューし、アエラなどに執筆。共編著に「現代アメリカ政治とメディア」。長崎市平和特派員。元共同通信社記者。