新生活特集
プライマリ・ケア・ドクターについて学ぼう
米国で暮らし始めて比較的早い段階から耳にする 「プライマリ・ケア・ドクター(Primary Care Physician = PCP)」という言葉。最近は日本でもよく聞かれるようになった。プライマリ・ケア・ドクターの定義や賢い選び方を、ニュージャージー州エッジウォーターのひばりファミリーメディカル院長・桑間千佳医師に聞いた。
ひばりファミリーメディカル院長
桑間千佳
Chika Kuwama M. D.
東京大学医学部卒業。東京大学附属病院旧第一内科、第三内科で研修。その後東京山手メディカルセンター(旧社会保 険中央病院)に勤務。3年半ニューヨー クに滞在後、東京海上ビル診療所(新宿・ 丸の内)に勤務。その後ニューヨークに 戻り、マウントサイナイ医科大学ベス・イ スラエル病院家庭医療研修プログラムを修了し、米国家庭医学会専門医資格 を取得。以来 20 年にわたり、ニュージャー ジーのエッジウォーター・ファミリー・ケア・ センターで家庭医として診療に携わる。2020 年9月から現職
Qプライマリ・ケア・ドクターとは、その役割は?
各人の健康管理をはじめ、病気やけがの治療などさまざまな問題に対応し、しかも継続的に関わっていく医師のことです。日本語に置き換えると「総合診療医」、もっと平たく言うと「かかりつけ医」、いわゆる近所の一般内科医、小児科医や家庭医で、健康に関するありとあらゆる事柄に関し、まず最初に相談を受ける立場にあります。プライマリ・ケア・ドクターの診察のみで解決に至ることは多くありますが、なかには専門医による診察、さらには精密検査や手術も含めて、専門的な治療が必要な場合も少なくありません。患者さんの症状から、どんな専門医を受診するのが最適であるかを判断し、最適な解決方法を見つけていくのもプライマリ・ケア・ドクターの仕事です。患者さんが複数の専門医を受診しながら治療を進めていくような複雑な病態の場合には、その取りまとめ役をすることもあります。
日本では頭痛であれば脳神経外科、腹痛であれば胃腸科、胸痛であれば循環器科といったように、患者さんがどの専門分野の医師を受診するかを各自で考えて判断することが多いように思われます。適切な診療科を受診される場合も多いですが、なかには症状がどの専門家領域であるのか分かりにくいこともあります。何科を受診するべきか判断に迷って、受診を先延ばしにしてしまうこともあるでしょう。できるだけ早く適切な医療を受けるために、プライマリ・ケア・ドクターの存在は欠かせません。
プライマリ・ケア・ドクターの診療科目
健康診断や予防接種、病気の早期発見のためのスクリーニングといった予防医療と、一般的な健康上の問題点に対し、幅広い診断と治療を行います。米国の健康保険は日本と異なり予防医療もカバーするシステムです。そのため、各人は毎年1回プライマリ・ケア・ドクターを受診して血圧、血糖値、コレステロール値など健康状態をチェックし、さらに何らかの症状が出たときにも同じプライマリ・ケア・ドクターを受診するのが原則です。
通常時の健康状態を把握しているプライマリ・ケア・ドクターは、体に異変が起きたときに「普段と何がどう違うか」をより理解できる立場にいます。また何年にもわたってその人を診察しているため、患者さんの家族や社会的背景にも理解があるのも強みです。
プライマリ・ケア・ドクターとしては、一般内科医や家庭医、また女性の場合には産婦人科医がその役割を果たすこともあります。一般小児科医は子どものプライマリ・ケア・ドクターです。
プライマリ・ケア・ドクターと保険
健康保険に加入している場合は、加入している医療保険を通じて、プライマリ・ケア・ドクターのリストを入手しましょう。ネットワーク外の場合には、同じサービスを受けても保険でカバーされず、自己負担金額が多くなってしまうので注意が必要です。多くの保険プランでは、プライマリ・ケア・ドクターを1人選ぶことになります。診療科目は一般内科、婦人科、小児科などで、ナースプラクティショナーの場合もあります。
経済的問題などから健康保険に加入できない場合は、無料または低料金の公的健康保険プログラムを通してプライマリ・ケア・ドクターの診察を受けることができます。その場合は、地域行政サービス311に電話して、公立病院や小児保健クリニック、地域保健クリニックなどで医療や歯科治療を受ける方法を調べてください。
プライマリ・ケア・ドクターの賢い選び方
チェックしてみよう!
□患者の健康状態やニーズについて経験豊富である
□認定医である
□尊敬する人物や団体から高い評価を得ている
□一般的な医療問題について、医師やスタッフが電話でアドバイスをしてくれる
□予約が取れるまでの待ち時間が適切である
□時間外でも対応してくれる
□病院の場所が自宅や勤務先に近い
□診療時間が生活サイクルに合っている(便利である)
□女性と男性医師、どちらが居心地よく受診できるか
□母国語を話す医師の方が安心して受診できるか
プライマリ・ケア・ドクターがいる人は
◎家族が健康でいられる
参考資料:NYC Health (www.nyc.gov)
◎健康で長生きする可能性が高い
◎患者のバックグラウンドや病歴を把握しているため、必要に応じた治療を受けられる
◎定期的に受診して信頼関係があれば、性生活やアルコール・薬物使用などについての悩みも相談できる