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共同通信
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伝統工芸「輪島塗」に英国出身の感性を吹き込んだ40年。「ここで諦めたくない」。地震だけでなく、大雪でも自宅に被害が出た石川県輪島市の漆塗り芸術家スザーン・ロスさんが展覧会を再開した。
山あいの牛小屋を改装して30年以上を過ごした自宅と工房は屋根に大木がのしかかり、中は家財道具が散乱した状態が続く。昨年末に大雪で裏庭の大木が自宅に倒れ、消防隊に救助されて避難生活を開始。工房の片付けをしていた時を襲ったのが能登半島地震だった。
工房への道は土砂崩れで遮断され、残した道具や手がけた作品は車で取りに行けない状態。「目の前にあるのに踏み入れられない」と涙をぬぐった。今月2日、意を決して川を何度も往復し、多くを取り戻した。
来日のきっかけは漆の美しさだ。英国の展覧会で漆の中に金が輝く尾形光琳の硯箱に心を奪われた。1984年に日本に渡ったが、職人の道は女性を理由に断られ続けた。石川県立輪島漆芸技術研修所に合格したのは6年後だった。
「2度の災害で、工房ではもう過ごせない」。今後は拠点を金沢市に移すつもりだ。