3月3日【気になったニュース】
一人の寄付で、医学大学の今後の授業料が無料に。
一週間お疲れさまでした。今週もいろんなニュースがありましたが、今週はやはり“ブロンクスの名医科大、8月から授業料無料”というニュースでしょうか。Bronxの私立Albert Einstein College of Medicineの元教授Ruth Gottesmanさんが$1 Billion (1,500億円)を同校に寄付し、全学生の授業料を8月から無料にすると発表しました。
アメリカでは、2023年度だけで、過去2番目の$58 Billion (8兆7000億円)もの寄付が大学に対してなされたように、大学への寄付はよくある話ですが、今回の件は、金額の大きさだけでなく、その中身も特筆されるもののように思われ、今回DAILYSUNでとり上げたNew York Timesの記事だけでなく、New York Times自身も続編を出していますし、WSJを含めて、多くのメディアが記事を出しています。
まず、寄付の原資ですが、主に2022年に亡くなった夫のDavid Gottesman氏が残した “投資の神様”とよばれるWarren Buffett氏が運営するBerkshire Hathaway社株式(1970年代の投資時点$150から、現在は$614,000; 4,000倍以上)ですが、ご自身が共同創立した投資アドバイザリー会社First Manhattan(AUM: >$20 Billion)の成功を考えても、やはり成功の要因は、株式投資とベンチャーですね(もちろん失敗もあったようですが。Buffettとのデパートへの共同出資を含めて。)
また寄付者が、あらゆる面で“謙虚さ”(ロー・プロファイル)を貫いておられる点も、多くのメディアを惹きつけたのだと思います。まず、このご夫婦が70年以上にもわたって、結婚生活をされてきたこと、これだけの資産家であるにも関わらず、同大学にも55年余りにわたって関わってこられたこと(最初は、学習障害の教授として、またその後はBoard of Trusteeとして)が挙げられると思います。 また大学への寄付としては過去3番目の大きさ(Medical Schoolに対しては過去最大)であったにも関わらず、今回の寄付の使い道に対する自分たちのエゴを押し通すような要求をしなかったこと(逆に、当初は匿名での寄付を求め、その後名乗り出ることを受け入れた後は、彼女の名前を冠した学校の名称変更をしないように求めたそうです)。 最近では、イスラエル-パレスチナ紛争に対する大学側の対応をめぐって、高額寄付者が、学校側にプレッシャーをかけ、総長を辞任に追いやるといったことが起こるなかで、これらの謙虚さが多くのメディアの共感をよんだのだと思います。
最後に、寄付の使い道を、同校全学生の授業料の無料化にあてたことに関してですが、この学校では、年間$59,000 (900万円)の学費により、半分以上の学生が$200,000 (3千万円)以上の学生ローンを抱えて卒業せざるを得ないという状況であり、どうしてもこの学生ローンがその後の医師としての人生における選択肢を制約せざるをえない結果となっていました(学生ローンを返さないといけないので。ただし、この学生ローン問題は、医学生に限った話ではないですが、特に医学部は学費が高いので。)この状況は、アメリカ全体の縮図でもあり、アメリカでは、専門医に比べて、相対的に収入が少ない家庭医(かかりつけ医)の不足が問題になっています。またこの大学のあるBronxは、Yankee Stadiumがあるにも関わらず、NYCでも貧しい地域であり、住民数比でかかりつけ医の数が少ないため、今回の寄付にともなう学費免除により、貧しい地域にも医師が(学生ローン返済を心配することなく)残れる環境の一端にもなればと期待されているようです。(“かかりつけ医”に関しては、先週発行の2月特別号でも取り上げていますので、ぜひご覧ください。)
そもそも大学の学費の高さや医療費の高さ自体もアメリカの課題ではありますが、このように社会還元の精神が根付いているのもアメリカの特徴だと思いますし、今回のように普段ニュースにはでてこない“ロー・プロファイルな影響力を持つ人々”が多くいるのがアメリカの強さのようにも感じました。
ではよい週末をお過ごしください。
代表 武田秀俊
今週の1枚
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