(この記事の初出は2024年2月6日)
カネが増えなければ株価は上がらない
もう一つ、当たり前すぎて誰もまともに言わない理由がある。それは、「株を買うカネが増え続けているから株価が上がる」ということだ。
欧米はいま、インフレ退治のために金融引き締めに入っているが、それまではコロナショックを理由に大規模な量的緩和を続けてきた。日本の場合は、それよりはるか以前、2013年4月からアベノミクスによる異次元緩和に入り、いまもこれを続けている。
つまり、市場にはおカネが増え続けている。中央銀行が市場に供給するマネーを「マネタリーベース」と言うが、アメリカのFRBは、2008年のリーマンショック以後、マネタリーベースを増やし続けてきた。
その結果、通貨供給量がGDPを上回るようになった。この上回ったマネーは実物資産を離れ、株などの金融資産に向かう。
次に、10年前と現在で、マネタリーベースがどれほど増加したか、日米で見て見たい。
[2013年12月]
日銀:193.5(+46.58%)
FRB:371.7(+38.92%)
[2023年12月]
日銀:665.5(+7.82%)
FRB:582.7(+7.79%)
*( )内は前年同月比
*単位は、日銀:兆円、FRB:百億ドル
日銀のマネタリーベースは、10年間で約3.3倍、FRBは約1.56倍になっている。ちなみにドル、円ばかりではない。世界中のマネーは増え続けている。この増え続けるマネーが、株価を上げているのは言うまでもない。
もはや、実体経済と金融経済は釣り合っておらず、経済は金融が支配する「金融経済」になっているのだ。
時価総額によって膨らむ「金融バブル」
金融経済が、実体経済とは違うということを示すのが、株の場合、「時価総額」というマジックだ。すべての資産が時価で表わされると、金融バブルが起こり、それは際限なく増殖する。
たとえば、ここに1株100円で取引されている株があり、その発行数が100万株とすると、その時価総額は1億円になる。しかし、100万株のうち市場に出ている株が買い手殺到で値上がりして500円になったとする。すると、時価総額は5倍の5億円になってしまう。
となると、その株を持っている人間の含み益は5倍になり、株の市場価格も5倍になる。つまり、金融資産はこうして増え続けていくことになる。しかし、それまで時価総額1億円だったものが5億円になったからといって、その差額4億円の付加価値が市場に生まれたわけではない。その分、実体経済が利益を出したわけではない。
さらに、この時価総額を担保に融資が行われ、そのカネで経済が回っていく。企業も個人も自分の資産が5倍になったと思い込むが、それは単なるバブルにすぎないのだ。
コロナ禍でいったんバブルは弾けている
ここで振り返ると、現在の金融バブル=株価バブルは、コロナ禍をきっかけにいったん崩壊している。バブルは崩壊したのだ。
2020年3月16日、NYダウは、前営業日比で2997ドル安という過去最大の下げ幅を記録した。下落率はなんと、12.9%で、これは、1987年のブラックマンデーで記録した22.6%に次ぐ過去2番目の下げだった。NY株価は、3月に入ってから暴落を繰り返しており、この日は「総悲観」状態で、ついにサーキットブレーカーが発動された。
その後もNY株価は下落を続けた。3月23日に、景気対策法案の議会での審議停滞が悲観され、とうとう2万ドルを割り込んで1万8591ドルまで下落した。これは、2月12日につけたそれまでの過去最高値2万9551ドルから1万ドル以上の下げで、下落率も36%強だった。
もはや、株は投げ売り状態。完全なまでの暴落だった。
日経平均も同じだ。コロナ禍が顕在化した2月後半から、連日下げ続けた。そうして3月19日、一時的に1万6358円を記録した。
ところが、NY株も日本株も、この後、大反転したのである。なぜ、こんなことが起こったかといえば、その理由はシンプル。中央銀行が大規模な金融緩和をし、政府がマネーをばらまいたからである。日銀もFRBもマネタリーベースを拡大し続けた。
(つづく)
この続きは3月6日(水)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。
※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。