「あの日を忘れないで」願い胸に歌い続ける

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共同通信
追悼式で楽曲を披露する小寺聖夏さん=2023年9月、北海道厚真町

 北海道厚真(あつま)町出身のシンガー・ソングライター小寺聖夏さん(27)が、2018年9月に起きた北海道胆振(いぶり)地方東部の地震で被災した人の思いを表現した曲を歌い続けている。厚真町の37人を含め計44人が犠牲となった震災から約5年半が経過。2024年1月に発生した能登半島地震にも思いを寄せながら、「あの日を忘れないでほしい」と願う。(共同通信=羽場育歩)

 3歳で民謡、5歳で三味線とピアノを習い始めた。中学では同級生とバンドを組み、ギターとボーカルを担当した。音楽を学ぶため上京。激しい揺れが古里を襲ったのは22歳の時だった。

 歌手になる夢を応援してくれた人たちのために自分ができることはないか。町の人から依頼もあり、曲の制作を決意。地震を「思い出したくない人もいるのでは」と悩んだが、「頑張れ」と励ますのではなく、思いを代わりに伝えようと考えた。

 「恐怖と共に開く携帯に通らない電波」「真っ暗 ここはどこ」―。10人以上に話を聞き、それぞれの体験や感情を歌詞に込めた。亡くなった人への思いは「変わらず時は進んで君はきっとまだここにいる」と表現。発災から約半年、楽曲「羽」が完成した。

 厚真町などでライブを開いたが、当初はうつむき耳をふさぐ人の姿も。葛藤したが、自分のように直接経験していない人にも届けたいと続けた。

 2023年9月、町が主催する発生5年の追悼式に招かれ、多くの住民の前で歌をささげた。「厚く厚く守った真(こころ)が迷わずに残った」。参列者は涙を流しながら聴いていた。

 今年1月1日の能登半島地震では、2018年9月の地震以来となる最大震度7を観測。小寺さんは被災者の不安や苦しみを案じ、音楽を通して「誰も一人じゃない」と伝えられたらと願っている。

震災発生5年の追悼式で、楽曲を披露する小寺聖夏さん=2023年9月、北海道厚真町
北海道厚真町出身のシンガー・ソングライター小寺聖夏さん