日本の低賃金は低学歴が原因 教育を変えなければ日本は復活しない!(下)

グローバル企業では「足切り」は修士以上

 全世界を見渡して、日本企業だけが、学部卒の学生を同じ給料で一括採用している。そうして、年功賃金のなかに押し込め、毎年、資本主義自由経済ではありえない一律ベースアップという「春闘」を行って、給料を抑えている。
 これでは、いつまでたっても、日本人の給料は上がらないし、人材は年を追って劣化し、いまの時代に適合しない人材ばかりになっていく。
 日本では、以前から給料が高い外資系や国際機関に就職することが就活学生の憧れの的になってきた。しかし、日本の教育システムでは、それを実現させるのは難しい。英語ができるような教育が行われていないうえ、高等教育そのものがおざなりだからだ。
 
ちなみに、国連などの国際機関の採用基準を見ると、学部卒の学士の資格だけでは応募すらできない。欧米のグローバル企業の多くも、修士号を持っていることを前提に採用を行っている。
 つまり、「足切り」は修士以上なのである。したがって、大卒学士で採用された者は、仕事をしながらマスターを取りに大学に通うのが一般的だ。
 
現在、株価が上がっている「マグニフィセント・セブン」(Magnificent Seven:Google、Apple、Facebook[Meta Platforms]、Amazon、Microsoft、 TESLA、 NVIDIA)は、どこも修士、博士人材を大量採用して、イノベーションを起こして発展してきた。たとえば、グーグルやアマゾンは、経済学の博士号をもつ人材を積極的に採用してきたことで知られる。
 
日本の大学では、経済学は文系に分類されるが、欧米では理系、すなわちサイエンスである。この点でも、日本の高等教育は世界水準に達していない。

修士号、博士号取得者は年々減り続けている

 現在、日本はどんどん低学歴化している。
「高度人材不足」などと騒ぎ出したのはつい最近のことで、ここ20年間を見ると、年々、博士号取得者は減り続けている。
 文部科学省によると、日本の博士課程の入学者数は2022年度に1万4382人で、ピーク時の2003年度の1万8232人から21%も減少した。社会人からの入学者は増えているものの、修士課程から博士課程に進む学生が大幅に減っている。学部課程から大学院学士課程に進む学生も減り続けている。
 この状況をアメリカなどの主要国と比べると、人口100万人あたりの博士号取得者は、2020年度に日本は123人だが、アメリカは285人、英国は313人、ドイツは315人。日本の博士号取得者は、主要国の半分にも満たないのだ。
 また、韓国や中国も含めて、世界の主要国が高度人材を増やしているのに比べて、日本だけが減らしているのである。
 さらに、企業における博士号の保持者の数を見ると、日本の2万5386人に対して、アメリカは20万1750人と約8倍もの開きがある。これでは、成長力において、日本企業は欧米企業、中韓企業にかなうわけがない。

就職不安のうえ授業料まで取られる大学院

 なぜ、日本では、修士号、博士号取得者が増えないのか?その理由は、これまで述べてきたように、修士号、博士号を取得しても、給料がたいして増えないことが最大の理由だ。なにしろ、日本企業は総じて学位の価値を認めない。企業へのアンケート調査によると、博士号取得者を採用しない理由について、「専門知識をすぐに活用できない」「自社の社員を教育した方が効果的」といった回答が多い。
 学生側の回答も、このことを裏付けている。本当は大学院課程に進みたいが、将来の生活への不安が募るので断念したという回答が多い。修士課程修了者へのアンケートでも、「早く経済的に自立したい」「博士課程に進学すると就職が心配」という回答がほとんどである。
 もう一つ、日本の大学院課程、とくに博士課程が敬遠されるのは、授業料を取ることである。アメリカの大学院の場合、学士課程は別として、博士課程になると授業料は免除されるうえ、生活費まで支給されるところが多い。とくに、理系、工学系の場合、「RA」(Research Assistantship)という制度があって、毎週20時間、教授の研究を手伝う代わりに、授業料と生活費が支給される。
 ドイツやフィンランドでも同様なシステムがあり、留学生にも門戸が開かれている。
 これではいけないと、最近、NECは東京工業大と連携し、大学院生を経済的に支援する制度を設けた。また、文科省は政府主導の博士人材育成事業「卓越大学院プログラム」を始めた。しかし、このプログラムや使い勝手が悪く、ほとんど機能していない。 (つづく)

この続きは4月1日(月)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 

※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

 

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

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