共同通信
目が見える人も、見えない人も心の底から笑ってほしい―。あえて全ての照明を落とした真っ暗な中での漫才ライブが3月中旬、新潟市で開かれた。企画したイベント会社は「暗闇での漫才は芸人にとって、ごまかしが利かない真剣勝負だ」と訴え、趣旨に賛同した人気お笑いコンビ「ナイツ」ら計6組が出演。視覚障害の垣根を越え、新たな笑いの形の追求が始まった。(共同通信=渡辺敦)
「不思議な感覚。お客さんに一体感があり、いつもより笑いが増していた気がする」。3月16日の終演後、ナイツの塙宣之(はなわ・のぶゆき)さんは感想を語った。ライブには、漫才コンクール「M―1グランプリ」優勝の「ウエストランド」らも参加。視覚障害者と同伴者は5千円のチケット代を無料にした。
暗闇での漫才ライブを考案したのは、新潟市西蒲区のイベント会社「ホイミ」の斎藤桂(さいとう・かつら)代表(45)。大学卒業後、2002年に芸能プロダクションへ入社し、芸人のマネジャーを7年間務めた。
その後、出身地の新潟を盛り上げたいと考え、地元へ戻って2010年に会社を設立。お笑いライブを企画したり、大学の学園祭に芸人を呼んだりして業績は好調だった。
状況を一変させたのは新型コロナウイルスの感染拡大だ。仕事は一時ゼロになった。コロナ収束に伴い業務を再開する中、視覚障害者の弟真(まこと)さん(44)が思い浮かんだ。視覚障害により、動きで表現する笑いを理解できない人も多いという。
「お笑いを楽しむのに、壁を感じている人を笑顔にしたい」と思い「耳で楽しむ漫才ライブ」を発案。実際、3月16日のライブ前半は照明がついた状態で、後半は舞台と客席の照明を消して行われ、出演者は前後半で違うネタを披露した。
全盲でお笑いライブには初めて来たという新潟県五泉市、木村弘美(きむら・ひろみ)さん(62)は「出演者が言葉で笑いを伝えようとしているのを感じた。涙が出るくらい面白かった」と笑顔だった。
「目に見えなくても、お笑いは良いなあと受け取ってほしい。見える人には、新しい形の漫才を楽しんでもらいたい」。斎藤さんの挑戦は続く。