津山恵子のニューヨーク・リポートVol.30
大谷にも「学び」のチャンス
ギャンブル不正暴いたメディアに拍手
大リーグ、ドジャースの大谷翔平選手の通訳がスポーツ賭博に手を染めていた問題で、水原一平「通訳」は、「容疑者」、つまり犯人となった。禁固刑もあり得る事態へと発展している。大谷選手は、日米スポーツ界に対して、あるいは将来のスポーツ選手を目指す子どもらに対して背負う「ロールモデル」的な役割を持つ。彼のためにも、こうした不正を暴いたアメリカのメディアには、拍手を送りたい。
連邦当局が4月11日公開した告訴状は、大リーグとファンに爆弾を落とした。ESPNによると、同容疑者が大谷選手の口座からギャンブルのために送金していた金額は、当初報道の450万ドルから1600万ドルにまで膨らんだ。容疑は銀行詐欺などで、罰金100万ドル、最高30年の禁固刑に相当するという。
しかも、同容疑者は当初ESPNの取材に対し、「大谷選手が目の前でパソコンを開いて、借金を肩代わりした」と話していた。ESPN記者と球団に対し、嘘をついたため、大谷選手もギャンブルをしていた可能性さえ想像された。スーパースターの信頼を裏切る重大な犯罪と、嘘の積み重ねには言葉を失う。大金を送金する際には自身を大谷と偽って銀行に電話をかけたこともあったという。
水原容疑者と胴元の間で交わされた生々しいやりとりも続々と明らかになった。 「自分はスポーツの賭けが下手すぎる(笑) (借金の)増額は可能? 知っての通り、支払いについては心配いらないよ!」 というのが、2022年の通話だという。まるで犯罪ドラマを見ているような対話だ。
私は、この悪者と不正を暴いたESPNなどの米メディアは「見事だった」と思う。おそらく、水原通訳を信じていた大谷もそう感じているのではないか。
市民として、この賭博スキャンダルから学べることは、「違法なスポーツ賭博には手を染めるな」ということだ。アメリカでは、アプリを使って簡単に合法的なスポーツ賭博をすることができる。これに対し、水原容疑者が陥った違法行為は、違法な胴元と知り合いになり、しかも借金をしてギャンブルを続けたことだ。合法な賭博アプリでは借金はできない。さらに、大谷選手の銀行口座という「ドル箱」があり、銀行にも嘘をついて大金を引き出した。
大谷選手自身が学ぶ点もあったと信じたい。
幼い頃から夢みて、海を渡って得た大リーグのスーパースターという地位。その責任は大きい。日米の野球少年少女のあこがれの「的」「ロールモデル」として、身辺はきれいに保たなければならない。プロ選手として、7年ちかくも水原容疑者とともに歩んできた間に、彼のロールにはふさわしくない不正が日々付きまとっていたわけだ。 3月に疑惑が浮上して以来、とてもすっきりした気分で、野球が見られるようになる。
津山恵子 プロフィール
ジャーナリスト。専修大文学部「ウェブジャーナリズム論」講師。ザッカーバーグ・フェイスブックCEOやマララさんに単独インタビューし、アエラなどに執筆。共編著に「現代アメリカ政治とメディア」。長崎市平和特派員。元共同通信社記者。