第10回 教えて、榊原先生! 日米生活で気になる経済を専門家に質問 「日経平均株価と生活への影響」

 

第10回 教えて、榊原先生!
日米生活で気になる経済を専門家に質問

「日経平均株価と生活への影響」

 

 Q. 日経平均株価が過去最高値を記録しましたが、日本での生活への影響はありますか?

米国株式市場では、代表的な指数が過去最高値を記録したというニュースはたまにしか聞かれませんね。長期で総じて右上がりになっているため、時折大きな下落局面があっても、やがて高値を更新するのが「普通」だからでしょう。それは営利目的の企業が利益の増大を目指すのは当然で、結果として利益は増えていくと見なされるからです。株価は企業の利益動向を反映します。なので、長期的には株式の資産価値が増える公算が大きく、短期的なリスクを取れる少なからぬ人々が世界中で株式投資に参加します。

しかし、今回ニュースとなった日本は何と34年振り。これまで株価が右上がりになっていなかったのは愕然とするほど遺憾な経済状況でした。90年代のバブル崩壊処理が終わった後も利益が増大傾向にならない時期が続いたという「普通」でない状況だったわけです。結果、株式は家計の資産価値増大に寄与するより、損失の確率が高いと受け止められます。投資家層が広がらず、資本主義の恩恵を受けて経済が活発に「回る」ルートは抑制されてきました。

端的に言えば、こうした経済状況はデフレ的環境の裏返しです。ですから、日経平均株価が過去最高値を記録したのは、望ましくないデフレ的環境が終わりつつあることを意味し、生活への影響も無いわけはありません。

日本株上昇の背景は、前回も書いた通り、好調な企業収益やガバナンス改革によって今後もそれが続くとの期待が要因としてあります。また、国内物価上昇を引き起こしている円安を悪材料だと指摘する声も聞かれますが、実際には企業収益にとって重要な追い風でしょう。物価上昇は望ましくないデフレ的環境の終焉という姿への端緒です。

もちろん、家計にとっては生活苦の原因となって嬉しいものでなく、最終的に賃金上昇が物価上昇を上回って実質賃金がプラスにならないとダメなのは言うまでもありません。「日経平均株価の史上最高値接近で浮かび上がる経済・生活実感との乖離」と題された記事もあるくらい、今のところ生活への良い影響を見ている向きは少ない様子。

つまり、株価の過去最高値更新は、良い影響があるに決まっている大きな動きですが、家計にも恩恵が行き渡るようなプラスの効果はまだ今後の展開次第。新NISA税制が株式投資を後押ししても、外国株への興味が中心のようで、日本株を保有しようという個人の機運は限定的です。それには日本企業が増益傾向を維持するという期待と現実が続く必要があります。

日銀は物価安定目標達成の確度が高まったとの判断で17年振りに利上げを実施しました。それが一部では財政健全化の議論に火を付ける副次的作用もあったようです。しかし、企業が支出を増やして国内需要を引っ張る完全なデフレ脱却の好循環は成立しておらず、本格的な金融や財政の引き締め政策は全く時期尚早。株価上昇と生活へのプラスの影響が連動して持続する望ましい状況の実現にはまだ安心を許さない日本の経済情勢です。

 

先生/榊原可人(さかきばら・よしと)
SInvestment Excellence Japan LLC のマネージング・パートナー。主にファンド商品の投資仲介業務に従事。近畿大学非常勤講師(「国際経済」と「ビジネスモデル」を講義)。以前は、米系大手投資銀行でエコノミストを務めた後、JPモルガン・アセット・マネジメントで日本株やマルチアセット運用業務などに携わる。

タグ :