世界は、まったくどうなるのかわからない時代に突入した。日本では、自民党の裏金問題で、これまで続いて来た政治が終焉を迎えようとしている。中国の経済失速は意外に大きく、ウクライナ戦争、イスラエルーハマス戦争は泥沼にハマっている。そんななか、アメリカ覇権は衰え続け、次期大統領にトランプがなろうとバイデンがなろうと回復は見込めそうにない。要するに、世界から、あるべき秩序が失われていく。
そう思って、今回は、ざっと世界情勢を展望してみたい。日本の報道で著しく欠けている、リアルな「世界観」を提示してみたい。
ヌーランド退任は「ネオコン外交の終焉」
まずは、アメリカから見ていきたい。
最大の注目は、なんといっても次期大統領にトランプかバイデンのどちらがなるか。これで、世界は大きく変わるとされ、とくに「もしトラ」(トランプがなったら)では大変なことになるというのが、大方の見方だ。とくに日本では、この見方が異常に強い。
じつは、私もこれまでそう思ってきたが、最近の動向を見て、どっちに転んでも大差ない。米国覇権は後退し、世界はますます混迷していくと思うようになった。
なぜそう思うようになったのか?
そのきっかけは、3月5日のヴィクトリア・ヌーランド国務次官の辞任表明(退任)だ。日本のメディアは大きく扱わなかったが、欧米メディアは「ネオコン外交の終焉」として大きく取り上げた。これで、ウクライナ戦争はウクライナに不利になり、泥沼化、長期化が必至だからだ。
ヴィクトリア・ヌーランドは、2014年のウクライナ「マイダン革命」の立役者。これで、親ロ派大統領のヤヌコビッチは追放され、怒ったプーチンがその後クリミアを併合し、2022年についにウクライナ戦争を起こした。
中ロとの「新冷戦」は今後大きく転換する
ネオコン(neo conservative)を、日本では、そのまま「新保守主義」と訳しているため、なんだかよくわからないでいる人も多い。簡単に言うと、「アメリカ流の自由と民主主義と市場経済を世界に広める。そのためには力を使ってもいい」という思想の持ち主たちのことだ。よって、独裁、強権国家の反米政権は、力づくでも倒そうとする。
ヴィクトリア・ヌーランドの夫、ロバート・ケーガンはネオコンのイデオローグ。彼女の祖父は旧ソ連のモルドヴァ出身。そのため、彼女は若いときからロシアの強権政権を毛嫌いしてきた。よって、オバマ政権時代に国務省に入ると、ウクライナの民主派、親西側勢力を強力にバックアップし、マイダン革命を主導したのである。
しかし、トランプ政権になると、彼女のようなネオコンは国務省から一掃された。トランプは自由と民主主義などはどうでもよく、アメリカさえよければいい(America First)という「ディール(取引)」だけの人間だからだ。ただ、バイデン民主党はネオコンを取り込み、彼女を国務次官として起用した。しかし、今回の辞任表明でネオコンは力を失うことが確実になった。
ネオコン外交が引き起こしていたロシア・中国との対立、つまり「新冷戦」は、今後、大きく転換する可能性がある。(つづく)
この続きは5月1日(水)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。
本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。