カカオ豆の不作でチョコレート価格が高騰
気候変動による影響は、食品にも数多く出ている。この春、もっとも身近だったのは、チョコレートの値上げが相次いだことだ。バレンタインデーにチョコレートを買いに言って、値上がりぶりに驚いた人も多いと思う。
普段、チョコレートをよく食べる子供たち、親にとっては、一般的な菓子チコレートの値上げは痛い。江崎グリコは、「ポッキー」などを2月1日からに値上げし、明治は「きのこの山」などを3月26日から値上げした。
値上げの原因は、主原料カカオ豆の不作だ。世界のカカオのおよそ4分の3は、西アフリカの4カ国、コートジボワール、ガーナ、カメルーン、ナイジェリアで生産されている。
それが昨年来、温暖化による長雨で、カカオの実を枯らすカビによる「カカオ黒莢病」が広がり、生産量は30%以上も落ち込んだ。その結果、価格は例年の2倍位以上に高騰した。
カカオは当初飲み物として欧州に伝播し、王侯貴族の嗜好品となった。それが英国で19世紀に固形チョコレートが発明されて以来、じょじょに庶民のスナック菓子となった。国際カカオ機関によると、カカオ豆の不作は今年も続く見込みだ。
カカオもコーヒーも投機商品となった
カカオ豆の価格が高騰するなら、生産量を増やせばいいではないかという見方があるが、温暖化だとそうはいかない。作付けの耕地面積を増やしても、天候不良が続けば、収穫量が増えるとは限らない。また、人手も足りない。
工業製品や地下資源と違って、農産物の場合、需要を埋めるための増産は簡単にはできない。
そのため、いまや、カカオは投機商品になった。儲かると投資家が殺到している。そんな状況を反映して、米誌『Forbes』は、「NVIDIA、ビットコイン、カカオ。どれが最上の投資か」という記事を掲載し、カカオ投資を推奨した。
カカオの高騰は、ほかにも波及している。2月からは、砂糖やコーヒー豆なども値上がりしている。すでに、スタバのコーヒーは3年連続で値上りしており、「スターバックスラテ」は2月からトール446円が450円になった。
ただし、アメリカの場合、円安もあって日本よりはるかに高い。日米のカップサイズの違いはあるが、「ラテ」のトールはロサンゼルスでは4.45ドル(約675円)、ニューヨークでは5.39ドル(約802円)だ。
私はPCで原稿を書くために、たまにカフェに入るが、スタバには行かなくなった、ドトールで十分。ドトールの「カフェラテ」も値上がりしたが、Mサイズで390円である。
サンマが不漁で食卓から消えて久しい
チコレート価格の高騰は温暖化の影響の身近な一例だが、すでに私たちはこうした例をいくつも経験している。食生活で言うと、最近は北海道、三陸産のサケをほとんど見かけなくなった。サケが川を登ってこなくなったからだ。
もっともひどいのは、サンマである。
サンマの漁獲量は2000年以降、年間20万~30万トンで推移していたが、2015年以降、急速に減少した。千葉の銚子港は、かつてサンマの水揚げで全国1位を記録したことがあったが、なんと2022年は「ゼロ」になった。
サンマは北からの回遊魚である。10〜15度の水温を好み、産卵のため8月以降に親潮に沿って南下し、北海道から千葉県にかけて日本の沿岸を回遊する。それが、温暖化による「暖水塊」(だんすいかい)の発生によって妨げられ、日本の沿岸にやって来なくなってしまったのである。
現在、スーパーなどで売られているサンマは、遠海産のサンマで、価格は高騰している。庶民魚だったサンマは、いつの間にか高級魚になり、一般の食卓から消えて久しくなった。(つづく)
この続きは5月10日(金)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。
※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。