「磯焼け」によっての海の「砂漠化」が進む
すでに知られているように、温暖化は陸上だけの話ではなく、海中でも起こっている。海水温の上昇が、このところの暖冬、猛暑の大きな原因だ。もはや、エルニーニョなどは聞き飽きた感がある。
私は鎌倉の海辺で育ったので、夏になれば、よく泳ぎ、よく潜った。しかし、いまや相模湾の海辺の海中は、私の子どものころの様子とはまったく違っている。漁師たちが言う、いわゆる「磯焼け」という現象が起こり、コンブやワカメなどの海藻類が消滅し、海が砂漠化してしまっている。
海藻のあるところを「藻場」と呼ぶが、そこはいわば「海の森」。それがなくなれば、海中の食道連鎖が崩壊する。まず、海藻をエサにしているアワビやサザエなどがいなくなり、藻場を住処や産卵の場などにしているエビやカサゴ、アイナメなどの魚もいなくなる。
アワビ、サザエの収穫激減で値段は高騰
私が子どものころに見た海中風景は、いまやわずかしか残っていない。三浦半島から江ノ島、小田原にかけて「磯焼け」は広がり続けている。
これはなにも相模湾にかぎった話ではなく、駿河湾、伊勢湾などでも起こっている。その結果、アワビやサザエの収穫量は、年を追うごとに減っている。
農林水産省のデータによると、アワビの漁獲量はピーク時の1971年の5659トンから2021年には658トンとなり、半世紀で約10分の1に激減している。また、サザエは8276トンから4275トンへと半減している。
いずれ、アワビ、サザエは食べられなくなるだろう。すでに、スーパー、魚屋で、アワビはほとんど売っていない。中華料理の高級食材としてのアワビは値段のいっそうの高騰で、アワビスープ、アワビのオイスター炒めなどは、高級店でしか出さなくなった。
アーバンベアの激増と動植物の絶滅リスク
昨年の秋から、ヒグマの出没被害が記録的に増え、「クマ報道」がひっきりなしになった。人家がある里に降りてくるクマを「アーバンベア」と呼ぶことが定着した。
ヒグマは好んで人里へ降りてくるのではない。山や森に餌がなくなったから、餌を探しに降りてくる。昨秋、北海道・知床では“激やせ”したヒグマの姿が目撃され、「これで冬眠できるのか?」と心配された。ヒグマは秋の実りをたくさん食べて栄養を蓄えて冬眠に入る。
ヒグマの主な餌は川を遡ってくるカラフトマスだが、温暖化で水温が上がり、カラフトマスは知床の川にやって来なくなった。サケもマスもいなくなってしまえば、ヒグマ自身もやがていなくなるかもしれない。
実際、個体数が減ったホッキョクグマは温暖化を警告するアイコンとなり、絶滅の危機に瀕している。
地球の気温が1.5度上昇した場合、陸上種の最大14%が絶滅のリスクに直面すると、「IPCC」(気候変動に関する政府間パネル)の 最新の「WGII AR6」(第6次評価報告書)は警告している。もし、気温が4度上昇すると、動植物の種の半分が絶滅の危機に瀕する可能性があるという。(つづく)

この続きは5月13日(月)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。
※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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