日本人学校からの帰国生入試体験談
受験生の保護者が志望校合格者の保護者に聞く
ニュージャージー州は、現地校に加えて全日制日本人学校があるため、各家庭の事情に応じた学習環境の選択に恵まれた地域である。特に、受験期の子供を持つ駐在員の家族にとっては大変有り難い。しかし、駐在期間や帰任先を考慮しつつ子供の意思を尊重することは、どの家庭でも容易ではない。今回、今後帰国生入試を控える生徒の保護者から、ニュージャージー日本人学校から第一志望であった日本の高校に進学した生徒のご両親に話を伺った。
Q:そもそも、なぜ現地校ではなく日本人学校を選択されたのですか?
A:息子が中学二年生の時に赴任しました。まずは日本人学校で生活に慣れ、その後に現地校に移り、高校卒業のタイミングで帰国する予定でした。しかし、高度な内容を英語で学ぶことの難しさを知るとともに、高校途中での急な辞令による帰任の可能性も考え、中学卒業まで日本人学校で過ごした後に、日本の高校を受験することにしたのです。
Q:実際に、お子さんがニュージャージー日本人学校に編入されて、その特徴をどのようにお感じになりましたか?
A:各学級が少人数であり、先生方と生徒や生徒同士の距離感が非常に近いことが非常に良い特徴だと思います。皆の前で発表する機会が多く、自分を主張することに抵抗がなくなったように感じます。
さらに、突然の帰任辞令があった場合でも、日本人学校では日本の学習指導要領に基づく教育が行われているため、学習面では比較的戸惑うことなく日本の学校へ転編入出来るのではないか、というのも大きな安心材料でした。帰任時期によっては、帰国生入試の基準に満たず一般受験枠での受験となってしまいますので。
Q:現地校に通学しなかったことは、帰国生入試での面接試験において、不利にはならなかったのでしょうか?一般的には現地校に通学した方が面接試験で有利な印象があるのですが。
A:確かにもっと現地のコミュニティーに参加させるべきだったかもしれないとは思います。ただ、日常生活において、現地の方々とのやり取りを重ねる中での成功体験や問題解決の経験を蓄積し、それを通じて何を考えたか、を家族でじっくり話をするようにしていました。キーとなるのは、特別な体験ではなく、いかに自分の経験を自分の切り口で考察し、言語化できるかだと思います。
正直、日本の高校がどのような海外経験を求めているのかは、受験を終えた今でも良く分からないのですが、今から振り返ると、多くの経験を通して“違い”を見つけることが重要なのではないかと思います。何も希少な経験ばかりが必要なわけではなく、むしろ何気ない出来事や経験を、日頃から家族で意見交換する習慣付けが大事なのだろうと。また、言語化するうえで、学校で先生方が面接の練習を熱心にして下さったのも非常に良かったと思います。
Q:受験にあたって、不安に感じたことはありましたか?
A:受験までの準備期間が短かったために、塾なしでの受験は厳しかったですね。塾からは、勉強面だけでなく、受験を見据えた個別のスケジュールに関する提案や必要な情報提供を頂きました。学校側と帰国生入試に対する認識のズレを感じてしまうこともありましたので、塾の存在は非常に心強かったです。
Q:受験期の家庭内の役割について教えて下さい。
A:我々の場合、息子と妻が日本に帰国して受験に臨み、娘と私がアメリカに残りました。勤務先の理解を得られたので、大変助かりました。
Q:お嬢様とお父様とのお二人で生活はいかがでしたか。
A:勤務先や周囲の方々の協力が欠かせないと痛感しました。同僚から聞いた、お惣菜や簡便食材がどこで買えるのか等、一見受験には関係しないような生活情報も役立ちました。
Q:今回の経験を、どのようにお嬢様へ活かしていこうとお考えですか?
A:現在、息子は日本の学生寮で過ごし、我々家族はアメリカにおり、娘は息子同様に日本人学校へ通っています。息子の時とは異なり、娘の高校受験までにはまだ時間的余裕があるので、娘には幅広い進路選択にも対応できるような学習習慣、特により高い英語力を身に付けさせたいと思っています。加えて、旅行等の非日常体験を通して、どのように考えたのか、家族でじっくり話をしていきたいと思っています。
インタビューを終えて
今回お話を伺って、少人数によるきめ細やかな教育を日本人学校から受けると共に、塾を活用した受験対策が基本的な取り組みになるかと感じました。そして、家族との会話を深掘りすることが面接対策になることに気付きました。その際、なぜそのような考えや発言に至ったのかについて子供が言語化出来るように、保護者がリードすることも必要になると思います。そのためには、保護者自らが世界の社会情勢を含む様々なことに関心を持ち、それに対する自分達の考えを言語化しておくことが不可欠でしょう。
日本人学校には、異なる都道府県から先生や子供が集まってきます。地理的・経済的理由から全ての子供が塾に通えるわけではありません。従って、都道府県別の受験に関する情報収集や個々の家庭の事情に合わせた受験指導が日本人学校には求められるように思います。とはいえ、これらのことは先生方の情熱だけで対処することは厳しいでしょう。塾との協業や文部科学省との協力体制等、より包括的な取り組みが必要かと思います。ポテンシャルに溢れた子供達をこれからどのように国際的に活躍する人材に育成していくのか、そして現実的な受験対策をどのように両立していくのか、もしかすると世界中の日本人学校が直面している課題かもしれません。
今後帰国生入試を控える一保護者として、学び多き機会を与えて下さったことに感謝申し上げます。
インタビュワー紹介
夫のアメリカ赴任に帯同し、現在ニュージャージー州に居住している。アメリカ生活を満喫しながらも、子供達の進路について考え始めている。