津山恵子のニューヨーク・リポートVol.32
「もう彼らを止められない」
反イスラエルの学生デモはどこにいく
コロンビア大学のキャンパス占拠に始まった反イスラエル学生運動は、あっという間に世界に広がった。「もう若者を止められない」とドキュメンタリー映画監督、マイケル・ムーアがブログに書いている。
では、「反イスラエル」「反戦」で、ベトナム戦争時のように社会を変えていくのか。実態は複雑だ。
震源地コロンビア大は、キャンパスで開く卒業式をキャンセルした。キャンパスから車で北に30分もかかるサッカー場が、学部ごとに催す卒業式の会場となった。友人が卒業する社会人向け一般教養学部のセレモニーに参加した。会場の周りは、ポリスラインが張り巡らされ、大学当局がくれたQRコードを持つ人しか入れない。
生徒代表は冒頭、デモやキャンパス占拠に参加した生徒を批判。「慣れ親しんだキャンパスでの卒業式ができないと1週間前に知らされた。それを望んでいた生徒もいるし、そうではない生徒もいる」
一方で卒業証書を受け取る際、パレスチナの国旗や、大学がイスラエル関連投資を止めるように訴えるプラカードを掲げる生徒がいた。一部の卒業生から歓声が上がる一方で、晴れの日に駆けつけた数百人の家族・友人らの一部が「ブーーーー!」と叫び騒然とした。
式の終わりには、学部長のスピーチ中に、パレスチナの民族スカーフ、ケフィアをガウンの上に羽織った生徒数人が「フリー、フリー、ガザ!」と繰り返し叫んだ。大学教員が駆けつけ、声を上げた卒業生を立たせて後ろを向かせた。参列者に「犯人」をさらしたような形だ。
卒業式に参加し、過去にはベトナム反戦運動に参加したという年配の女性キャロリンに話を聞いた。 「大学は、学問の自由、表現の自由を守らなくてはならないのに、警察の手を借りて学生運動を抑圧したのは、間違っている。政治的だ」
確かに、大量の逮捕者が出た。試験や就職を控える学生にとっては大きなダメージとなる。コロンビア大当局がキャンパスを閉鎖したため、占拠した学生や寮の学生が食事を調達できなくなる「兵糧攻め」まであった。ニューヨーク大学やニュー・スクールでは、警察がキャンプを撤去しても、ゲリラ的なキャンプの出現と目まぐるしく動きがある。
一方で、ニューヨーク市警によると、イスラエル人とユダヤ人に対する市中での攻撃は増加し続けている。親イスラエル派も必死だ。
コロンビア大国際公共政策大学院の卒業式ゲストとなった国際政治学者イアン・ブレマーはこう訴えた。
「敵対する側の意見に敬意を表し、耳を傾けてほしい。君たちは寛大な人間なのか?そうなら、意見が合わない人たちの声を聞いてほしい。それこそ君らがするべきことだ」
(写真と文 津山恵子)
津山恵子 プロフィール
ジャーナリスト。専修大文学部「ウェブジャーナリズム論」講師。ザッカーバーグ・フェイスブックCEOやマララさんに単独インタビューし、アエラなどに執筆。共編著に「現代アメリカ政治とメディア」。長崎市平和特派員。元共同通信社記者。