日米連携で中国6Gを国内だけに封じ込める
5Gで世界から大きく遅れたこともあり、日本政府は6Gに関する戦略を2020年6月の時点で策定した。名付けて「Beyond 5G」。これを受けて同年11月には、産官学で6G開発をする企業や大学を支援する組織「Beyond 5G 新経営戦略センター」を設立した。
しかし、実際のところ、日本の6G開発はあまり進んでいない。ドコモとソフトバンクは、基地局搭載ドローンを開発する、楽天モバイルは宇宙に通信衛星を配備すると表明しているが、まだ計画の域を出ていない。
KDDIは、イーロン・マスクのスペースXと提携して一歩先んじている。今年の1月3日、衛星とスマホマの直接通信が可能になる「スターリンク」(Starlink)の衛星6機が打ち上げられた。これは6G実現への布石である。また、KDDIでは、今年中にスターリンクとau通信網を活用しauスマホが直接通信できるサービスの提供を開始するという。
ただし、6G開発における日本の戦略は、アメリカと共同で中国6Gに勝とうというものだ。要するに、これはアメリカの要望で、アメリカは日米連携で中国6Gを中国国内に封じ込めたいのである。
なぜなら、6G開発では、5Gがそうだったように中国が先んじているからだ。
一歩先に進んでいる中国、対抗する西側
現在、6G 開発で抜け出しているのは、中国である。 2020年11月には世界初の6G衛星の打ち上げに成功しているし、5Gで実績のあるファーウエイ、ZTE、中国聯合通信などが開発を進めている。
しかし、米欧日などの西側が結束し、安全保障上の理由から中国6Gを排除することになれば、世界の通信規格が中国と米欧日の西側で分かれてしまうかもしれない。
実際、この3月5日、アメリカ、オーストラリア、カナダ、チェコ、フィンランド、フランス、日本、韓国、スウェーデン、イギリスの10カ国は、6Gの研究開発で連携していくという共同声明を発表した。
欧州ではフィンランドの6G開発がもっとも進んでいる。ノキアの国だけあって、5Gと同様6Gでも世界をリードしつつある。2028年をめどに最初の仕様標準化を完了し、2029年末までには商用サービスを開始する予定が立てられている。
アメリカは、2023年6月にフィンランドと6Gの研究開発で協力する協定を結んだ。日本は、アメリカに先駆け、2011年にフィンランドと連携協定を結んでいる。
国家が将来の技術を見極められるのか
以上、半導体に始まり、生成AI、6Gと、最先端のイノベーションが期待される3つの分野を概観してきたが、問題は政府の投資、補助金で、本当にイノベーションが実現し、技術覇権が達成できるかということだ。
もし、その答えがイエスなら、今後の技術覇権競争に勝つのは、中国ということになる。世界第2位の経済を持つ中国では、政府がスタートアップ投資の最大の担い手だからだ。
中国は、改革開放に転じたときから、大学改革を徹底的行い、北京大、清華大などを世界トップクラスの大学に育て、あらゆる分野の研究開発を推し進めてきた。
また、世界の工場となることで、現在、世界一の大量生産システムを持っている。
ただし、大きな問題がある。いくら研究開発に資金をつぎ込もうと、生産システムを持とうと、国家に将来のイノベーションを見極められるかということ。つまり、目利きができるのかということだ。
これは日本にも言えることで、国家が定めた投資は、ほぼことごとく失敗している。
イノベーションには自由な環境が必要
中国はこれまで、世界で確立されたEV、太陽光パネル、ドローン、顔面認証、高速通信など、ある程度わかりきった技術分野に大量投資してきたに過ぎない。
中国が、誰もが見たことも、考えたこともない、まったく新しいイノベーションを起こしたことはない。
中国の研究開発において、基礎研究への支出は6%程度である。これに対して、アメリカは17%を占める。
また、アメリカの研究開発は、国家の資金に偏っていない。民間企業が約60%、ベンチャーキャピタルが約20%、財団や慈善団体、大学などが約5%以上となっていて、そこには多様性がある。
イノベーションを起こすのに、もっとも大事ことは、自由闊達、オープンな環境と、研究者・技術者たちのオリジナルな発想とコミュニケーションという。中国にそれがあるだろうか。思いつくのは、深圳ぐらいだ。
技術覇権をもたらす技術がなにかは、はっきりと予測できるものではない。しかし、かつて「日の丸半導体」「家電」「パソコン」など“メイドインジャパン”が持っていた優位性が一つでもないと、日本は今後世界から相手にされなくなるだろう。
(了)
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山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。