共同通信
事実上の内戦状態に陥っているミャンマーで、経済の混乱が市民を苦しめている。通貨チャットの下落が続き、生活必需品の価格が上昇。市民は現金を安全資産の金に換えて防衛を図る。中古車価格も上がり、観光業は低迷。貿易の要衝での戦闘激化も伝えられる。徴兵制の実施が若い労働力の確保にも影響し、先行きは見通せない。(共同通信=伊藤元輝)
▽財産守る唯一の手段
半ズボンにサンダル姿の男性(52)が、かばんから汚れた札束を丁寧に取り出し、カウンターに置いた。最大都市ヤンゴンの金販売店。タクシー運転手としての蓄えを金の指輪に換えた男性は「現金はどんどん価値が下がるから不安だ。庶民も貯金代わりに金を買う」と明かした。
男性が購入したのは2024年2月下旬。その後、ミャンマーで金価格は何度も過去最高額を更新した。金の高騰は世界的潮流だが、ミャンマーでは軍事政権の国家運営への不信感が価格を押し上げる。庶民は財産を守るほぼ唯一の手段の金に手が届きにくくなっている。
通貨安は深刻で、軍政は1ドル2100チャットの公定レートを定めるが、市井でやりとりされる実勢レートは2024年4月下旬時点で3800チャット台に下落。輸入品の価格も上昇し、食用油などの値上がりが生活を圧迫する。2021年2月のクーデター以降、軍政は外貨流出を防ごうと車の輸入も制限。中古車価格は高止まりしている。
▽貧困率50%で中間層消滅
ヤンゴンの街は高級ホテルやショッピングモールもあり、クーデター前の経済発展を思い起こさせる。ただ、外国人観光客の姿はほとんどなく、土産物市場も閑散としていた。国連開発計画(UNDP)によると、ミャンマーの貧困率は昨年時点で50%に迫り、中間層が消滅しつつある。
2023年10月下旬以降、軍政を認めない民主派や少数民族武装勢力の攻勢が強まり、一部地域では国軍が劣勢になっている。2024年4月中旬には南東部にある隣国タイとの貿易の要衝ミャワディが攻め込まれ、経済にも影響が及ぶ。徴兵で若い労働力が軍に取られ、徴兵を避けたい若者の国外脱出の動きも重なって人手不足の懸念も強まる。
一方で富裕層に娯楽再開の動きがある。ヤンゴン中心部のダンスクラブでは戒厳令下にもかかわらず人気歌手のコンサートが開かれる。軍政は一部娯楽を容認し、平和な社会を演出して統治の正当化を狙っているとみられる。