すでに4月1日から始まった年金の減額
さて、4月1日から新年度が始まった。言い換えれば、「増税の新年度」である。まずは年金。年金は強制加入であるから、これは税金と同じ。国民年金も厚生年金も4月から引き上げられた。
国民年金保険料は、これまでの月額で1万6520円から460円増えて1万6980円になった。これにより、今年1年間の総計で、国民年金は5520円の負担増に。さらに2025年度は月額530円増えて1万7510円となることがすでに決まっている。
厚生年金のほうは、物価や賃金の上昇による「マクロ経済スライド」(賃金の伸びより0.4%低く抑える)によって支給額は2.7%引き上げられたが、実質的には減額となった。減額は、夫婦2人の標準世帯で月額6001円。これは国民年金も同じで、月額1758円の実質減額になった。
「年金改正」というより「年金改悪」が進行中
「五公五民」と国民負担率がほぼ50%(じつは60%を超えて「六公四民」)になっているこの国で、これ以上の増税は、一般国民の生活を圧迫するどころか、生殺しにする。それなのに、現在、年金制度の改正が議論され、政府はさらに年金保険料を搾り取ろうとしている。
改正の論点は、次の4点。いずれも改正というより「改悪」で、3の「国民年金保険料支払い期間を45年に延長」(現在は40年)が実現すると、65歳まで国民年金を払わされることになり、その額を試算すると、夫婦2人でざっと210万円になる。
[年金改正の論点]
1、マクロ経済スライドの期間延長
2、厚生年金75歳まで加入
3、国民年金保険料支払い期間を45年に延長
4、厚生年金の適用拡大
「健康保険料アップ」と「年金減額」が直撃
年金と同じく、健康保険料も4月から上がった。対象は75歳以上の高齢者が支払う健康保険料で、年金収入が年211万円を超える約540万人。これは、75歳以上の約3割にあたる。
さらに、来年4月からは対象が広げられ、年金収入153万円以上に拡大する。この「改悪」を試算すると、年金収入200万円超の人は年3900円負担が増えるという。
健康保険料に関しては、75歳以上は原則1割負担という現状を2割負担にする方針になっているので、高齢者の暮らしはますます厳しくなる。
さらに介護保険料も4月1日から上がった。
65歳以上の人の第1号保険料は3年ごとに見直されることになっているが、今年から3年間は見直し期間。そのため、多くの自治体(市町村)は、引き上げを決めた。
朝日新聞の集計によると、政令指定市と県庁所在市、東京23区の計74市区では、65%の自治体が引き上げた。増額幅がもっとも大きかったのは大阪市で、前年度より月1155円増えた。次いで千葉市が900円増、福岡市が674円増だ。
増税ではないかと批判続出の「少子化対策」
岸田内閣の目玉政策の一つ「異次元の少子化対策」は、まったく異次元になっていないが、その財源を巡って「これは少子化増税ではないか」と批判が相次いでいる。岸田首相は「国民の実質的な負担は増えない」と繰り返すが、財源を「健康保険料に上乗せして集める」とした以上、それは間違いなく増税だ。
この少子化支援策が実施されるのは、2026年度。加入する公的医療保険、所得などに応じて負担額は異なるとしているが、これでは「若者世代がつぶれる」という批判の声が根強い。しかも、徴収額は毎年上がり、2028年度に満額となる。
こうして集めたお金は、児童手当や育児休業給付の拡充などに充てるとされている。しかし、それは子育てをしている人たちへの支援にすぎず、少子化対策とは言えない。なんでもかんでも名目を決めて税金を集め、それをばらまくだけの政治をいったいいつまで続けるのだろうか。
(つづく)
この続きは6月4日(火)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。
※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。