補助金で新工場建設ラッシュ!しかし、「日の丸半導体」の復活はありえない(上)

  熊本、北海道、広島、三重——日本各地で半導体の新工場の建設ラッシュが続いている。かつて世界を席巻した「日の丸半導体」の復活を目指し、政府が計4兆円もの補助金をつぎ込むことになったからだ。
 しかし、これで日本が再び世界の半導体産業をリードできるかといえば、それはありえないという。私が話を聞いた専門家、関係者は、そう口を揃えた。結局、半導体生産の下請け工場ができるだけではないか、というのだ。

台湾「TSMC」の進出で大フィーバーの熊本

 すでに多くの報道があったので、台湾「TSMC」がやって来た熊本県菊陽町のフィーバーぶりは周知のことと思う。不動産は高騰し、町の飲食店・コンビニなどは大繁盛、道路は渋滞し、まさにバブル期のような状況になっている。
 台湾「TSMC」は、世界最大手の半導体ファウンドリー。新工場を熊本につくることを発表したのが2年前。以来、建設計画はトントン拍子で進み、この2月24日に開所式が行われた。と、同時に、第2工場の建設も発表されたので、フィーバーはいまも続いている。
 新工場の稼働は年内とされ、日本政府は第2工場を含めて、総額1兆2080億円を支援する。
 これまで発表されたTSMCの総投資額は約200億ドル(約3兆1000億円)だから、日本政府はその3分の1超を支援するわけだ。また、TSMC熊本工場の運営会社には、ソニー、デンソー、トヨタも出資した。
 これでは、TSMCが日本に工場を建てないわけがない。ただし、第1工場で生産するのは、一世代前の回路線幅12ナノ(ナノメートル=10億分の1メートル)。第2工場では、3年後までに6ナノのロジック半導体を生産するというが、いずれも最先端の半導体ではない。

世界最先端の2ナノを目指すラピダス

 TSMCの新工場建設とともに注目されているのが、北海道千歳市に工場を建設中の「ラピダス(Rapidus)」。こちらは、1昨年誕生したオールジャパン体制の新会社で、2025年に試作ラインを稼働させ、2027年には生産を開始するという。
 つくるのは、最先端の2ナノ。これまで日本の半導体メーカーは40ナノまでしかつくっていないので、こちらは画期的な挑戦である。
 そのため、ラピダスは米「IBM」の支援を仰ぎ、現在、IBMの研究拠点に約100人の技術者を派遣して、技術習得を進めている。ラピダス設立にあたって、政府は計3300億円の支援を決定したが、今後の進捗次第で追加支援も行うことになっている。
 私は昨年、千歳市を訪れたが、すでに不動産価格は高騰し、関連企業も集まり出して、熊本と同じようなフィーバーが起こっていた。今年2月27日、衆院予算委員会の分科会で答弁に立った斎藤健経済産業相は、「失敗が許されないプロジェクトだ」と強調した。

半導体産業につぎ込まれる政府資金は4兆円

 TSMC、ラピダスばかりではない。いま、国内各地では半導体の工場の建設、増強計画が進んでいる。いずれも、日本政府によって大幅な支援金がつぎ込まれる。
 「キオクシア」(旧東芝メモリー)は、米「ウエスタンデジタル」と共同運営する三重県四日市市と岩手県北上市の工場を増強し、次世代のメモリー半導体の開発・生産に7200億円超を投じることを決めている。日本政府の補助金は、2429億円。
 米「マイクロン・テクノロジー」も、次世代のメモリー半導体の開発・生産のため、広島県東広島市の工場の増強を決定。約5000億円を投資する計画で、政府は最大1920億円の補助を決めた。
 TSMCと並ぶ台湾の半導体大手「PSMC」は、ネット金融大手の「SBIホールディングス」と共同で、車載向けのマイコンや電源管理IC向けの半導体の工場を、宮城県大衡村に建設する計画を発表。総投資額は8000億円超としている。日本政府は援助する方針だが、まだ額は決定していない。
 このようにして、半導体産業につぎ込まれる政府資金(税金)は、これまでに計上されたものを合計すると約4兆円に達する。
 そこで問題は、この巨額の政府投資が成功し、日の丸半導体が復活するのかどうかだ。
(つづく)

この続きは6月13日(木)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 

※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

 

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

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