津山恵子のニューヨーク・リポートVol.34 トランプの「マメさ」が支持アップに 有罪後24時間で86億円寄付

 

津山恵子のニューヨーク・リポートVol.34

トランプの「マメさ」が支持アップに
有罪後24時間で86億円寄付

 

「これは、ニュースはかなわない」と思った。5月30日、トランプ被告・前大統領に対し、有罪評決が下りた直後だ。ポリティコからの速報が午後5時15分。その後6時58分から夜中までに、トランプから3本のテキストメッセージが来た。メールも3本だ。 「トランプから速報:私は、不正な裁判で有罪になった。私は政治的な囚人だ!」「この国のために祈ってくれ。裁判システムが不正だ」「ネヴァー・サレンダー!MAGAハットを買おう」という極めて短いメッセで、リンクを開くと彼の言い分と、寄付のサイトに導かれる。6月1日までには、ハットだけでなくTシャツも加わった。トランプ選挙陣営は、有罪評決後24時間で5300万ドル(約86億円)を集めた。  

2016年大統領選挙中、元ポルノ女優に対する口止め料を不正に会計し、業務記録を改竄したとされる裁判で、陪審が有罪評決に達した。米国の大統領経験者が有罪となるのは初めて。7月11日に判事が言い渡す量刑は、最高4カ月の禁錮刑、あるいは自宅禁錮、最も軽くて罰金の可能性がある。  

トランプからのメッセージとメールに驚きながら、私は主要メディアの記事を読んだ。陪審がなぜ早い段階で有罪評決に達したのか、公判中に決め手となった証言がハイライトされている。説得力はある。陪審12人で一人でも証拠、証言に満足しない人がいれば無罪になる可能性もあったためだ。証拠・証言に納得したからこそ12人が、アメリカで最大の権力者であった大統領経験者を「有罪」にするという判断を下した。  

ただ、ニュース記事は長い。一番短いと思われる通信社、AP通信の記事で760ワード程度ある。裁判の専門用語も多く、読むのには3分ほどかかる。それに比べて、トランプの「マメな」メッセージは20ワード以内で、すぐに寄付やグッズ購入のサイトに誘導され、「裁判が不正だ」と思い込んだ支持者が行動を起こせる。これに対して、事実を伝えているニュース記事を読んでも、人々は何も行動は起こさない。  

2021年1月6日、トランプ支持者が連邦議会議事堂(キャピトル)を攻撃し、5人もの死亡者が出た。トランプはこの直後、Twitter(現在X)の使用を禁じられた。しかし、Xは、トランプのアカウント復帰を認めており、トランプも復活する計画だと米メディアが伝えている。Xに復帰すれば、さらに広い支持者にフェイク情報だらけの「トランプワールド」がリーチすることになる。  

一方で、トランプが有罪となった場合、彼への投票を見合わせるという有権者は、激戦州で6%程度いるとされる。有罪という事実が及ぼす一定の影響はある。しかし、大統領選挙の結果にどの程度響くのか今は不透明だ。  

いずれにせよ、有権者がスマートフォンでいつでも好きな情報をテキストやSNSで受けている今、そこで彼らの情報世界が完結している。事実を得るためのニュースを読む世界は、トランプからのフェイク情報物量作戦には不利な状況だと痛感する。

 

 

有罪評決直後から筆者に届いたトランプ被告からのテキストメッセージ

津山恵子 プロフィール
ジャーナリスト。専修大文学部「ウェブジャーナリズム論」講師。ザッカーバーグ・フェイスブックCEOやマララさんに単独インタビューし、アエラなどに執筆。共編著に「現代アメリカ政治とメディア」。長崎市平和特派員。元共同通信社記者。

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