マレーシアと同じ、ただの「下請け」になる
「ITmedia」記事は、「日の丸半導体」の復活がない傍証として、マレーシアの半導体産業の例を挙げている。
かつてマレーシアは、外資系半導体メーカーを多く誘致し、一時期“東洋のシリコンバレー”と呼ばれた。しかし、本来のシリコンバレーにはならず、国内半導体メーカーは育たなかったのである。
マレーシアには現在も、米「インテル」、独「インフィニオン・テクノロジーズ」、米「テキサス・インスツルメンツ」などが拠点を構えていて、「最終工程」の中心地となっている。「前工程」の生産拠点が集中するシンガポールに近いうえ、人件費が安いからだ。
その結果、現在、マレーシアは半導体の輸出国としては世界6位。まさに、日本はこのマレーシアを後追いしているだけではないかと、「ITmedia」記事は言うのである。
「ITmedia」の記事は次のように、結んでいる。
《ここまで言えば、筆者が何を言いたいのかお分かりだろう。つまりTSMCにとって日本進出の動機は、米インテルなどがマレーシアに拠点を置くのと同じく、「安くて便利」以外の何者でもなく、「日の丸半導体復活の追い風」なんてストーリーは、岸田政権が一方的に抱いている「願望」にすぎないのだ。》
「ラピダス」は「IBM」のリスクヘッジ
それでは、最先端2ナノ半導体の開発・採算を目指すラピダスはどうなのか?
「ラピダスは、東京エレクトロンでトップを務めた東(ひがし)哲郎氏が主導して、トヨタやソニー、NTTなど国内8社が出資し、国が3300億円を出す事実上の国策会社ですが、はっきり言ってIBMに乗せられたと思いますね」
と言うのは、ある半導体業界関係者だ。
米「IBM」は、半導体業界の負け組。それを挽回するために、2ナノの開発に乗り出したが、開発・生産ともリスクが大きい。そのため、リスクを負ってくれるところを探してみたら、ラピダスが日本政府の資金を引き出せると踏んで、話を持ちかけてきたのだという。
したがって、まだ2ナノの技術が完成しているかどうかもわからないと言うのだ。
「半導体を設計する技術、つくる技術、仕上げる技術は、それぞれ別物。だから、計画通り2027年に生産開始できるとはとても思えませんね。
それに、北海道にはハイテク系の人材の集積がない。また、世界から人材を集めるにしても、そのインフラもないんですよ」
TSMC、ラピダスがこうなら、ほかの半導体企業も、推して知るべしだろう。
人材不足で国際競争に負けるのは必至
TSMC、ラピダスともに指摘されたように、日本の人材不足は深刻だ。半導体関係の技術者は、日の丸半導体の凋落とともに大幅に減った。 経済産業省によると、半導体の関連産業の従業員数は、1999年には23万人余りだったが、2019年には16万8000人余りとなり、20年間で3割も減少している。
JEITA(電子情報技術産業協会)の半導体部会が、昨年、行った政策提言でも、人材不足は指摘されている。現在、キオクシアなど国内に工場を持つ半導体メーカー8社は、今後10年間で計4万人の人材が追加で必要になるというのだ。
このような人材不足は、国際競争に大きく影響する。
日本政府の支援策など大した規模ではなく、アメリカ、中国、韓国などは、日本を上回る規模の投資で半導体産業を強化しようとしている。そのためには、高度な人材を集めなければならないが、歴史的な円安もあって、日本は高額報酬を出せない。また、国内にも人材がいないとなれば、国際競争に負けるのは必至ではなかろうか。
(つづく)
この続きは6月17日(月)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。
※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。