補助金で新工場建設ラッシュ!しかし、「日の丸半導体」の復活はありえない(完)

日本政府はいったいなにを目指すのか?

 人材不足以上に大きな問題がある。それは、日本政府の支援が各半導体企業に対して総花的であり、全体としてなにを目指しているのかはっきりしないことだ。
 半導体産業で世界をリードしていく、日の丸半導体を復活させるというなら、ただ単に生産を拡大すればいいという話ではない。ファンドリーではなく、設計に特化したファブレスを持たなければ、半導体覇権は握れない。
 半導体といっても分野があるので、そのうちのどの分野を強化するのか? 日本が遅れに遅れたロジック半導体を開発・生産するのか? それとも従来のメモリー半導体の生産を増強するのか? 日本が得意とする装置産業、素材産業をさらに強化するのか? など、選択肢はいくつかあるというのに、ただ、漫然と資金を投入しているようにしか見えないのだ。
 たとえばキオクシアは、メモリー半導体のNAND型フラッシュメモリーの生産を得意としている。ソニーは、イメージセンサーを得意としている。いずれも、現在の世界でもっとも求められているロジック半導体ではない。したがって、ここをいくら強化しても、それほど意味はないと思える。
 では、日本にロジック半導体がつくれるかというと、まるで心もとない。ロジック半導体製造で大事なのは、なんといっても設計だけに特化したファブレスである。その代表例が米「NVIDIA(エヌビディア)」で、「NVIDIA」は現在、画像処理半導体のGPU(Graphics Processing Unit)で80%以上のシェアを誇っている。
 その牙城に迫るのは並大抵のことではないが、そういう意識すら日本政府にはないように見える。

主戦場はAI、半導体がその開発を支える!

 そもそも次の時代を考えると、なによりもAIがすべての産業の根幹となる。AIといっても生成AIである。チャットGPTが開発されたため、NVIDIAが大躍進したのは語るまでもないことだ。
 ディープラーニングの過程では、NVIDIA製のGPUが必要不可欠だった。
 このようにAIと半導体は相互依存の関係にあるが、より重要なのはやはりAIだろう。たとえば、AIの活用により、製薬会社「イーライ・リリー」は新薬開発で画期的な成果を上げ、株価が高騰した。
 つまり、今後の産業の主戦場はAIであり、AIの進歩を支えるのが半導体だ。となれば、政府には半導体はもとより、それとセットのAIを含めて、戦略的に投資していくことが求められる。
 最近、世界のビッグテックであるマイクロソフト、グーグル、アマゾン、アップルなどは、次々にAIへの巨大投資を発表し、それを実行している。日本のソフトバンクも、孫正義社長が「人間の知能を越えるA I は、未来を切り開く課題をすべて解決してくれる」と10兆円規模の投資を発表した。

日本の官僚と政治家は未来が見えていない

 AIを進化させるために、今後ますます超高品質でマイクロ化された半導体の開発競争が激化する。生成AIの膨大かつ高度で複雑な演算処理を、どれだけ小さいチップで行えるかという競争だ。
 はたして、日本企業はこの争いでポイントを上げることができるのだろうか? 生成AIは、論理的なことはすでに完成している。つまり、あとは超高性能の半導体の開発にかかっている。そのため、米中をはじめ、世界各国が信じられないような巨額投資を行い始めた。
 しかし、日本の官僚と政治家には、そうした未来が見えないようだ。シンギュラリティが予想された2045年より早くやって来ようとしているのに、シンギュラリティの意味すら理解していない人間が多すぎる。
(了)

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山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

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