津山恵子のニューヨーク・リポートVol.35 家族の死、コカイン、銃 バイデン家、フツーのなじみある悲劇

 

津山恵子のニューヨーク・リポートVol.35

家族の死、コカイン、銃
バイデン家、フツーのなじみある悲劇

 

異常な夏の始まりは、過去のアメリカ大統領への初の有罪評決だけではなかった。現職大統領の息子にも有罪評決が下った。大統領の子息が重罪で有罪になるのも初めてだ。

デラウェア州の陪審団は11日、バイデン大統領の次男ハンター被告に、薬物中毒に関連する重罪3件について有罪と判断した。銃を購入した際、違法薬物の使用や依存症を問う書類に「ノー」と答えていたのが虚偽とされた。

裁判によると、ハンターと妹アシュリーのクラック・コカイン依存症は、15年長男ボー(46)の死の頃に始まる。ボーは、デラウェア州司法長官を務めた一家の期待の星だったが、脳腫瘍で亡くなった。以来、ボーの未亡人ヘイリーもコカインを始めた。バイデンは、この3人が中毒から抜け出そうと苦しんでいた最中の19年、大統領選挙の候補になることを決心している。

立候補したのは、ハンター、アシュリーほかジル夫人、孫までが出馬を支援し、ボーの遺言でもあったためだ。ハンターは自伝で「Dadは、大統領になるまでリタイアしないだろうと思っていた」と書いている。

ファースト・ファミリーが、薬物中毒者を抱え、家族でその苦しみを味わっている。ある意味、この国でいかに薬物利用が一般的かという、平均的な人々の姿を反映しているとも言える。

米医学誌「アメリカ医師会誌(JAMA)」に掲載された研究によると、薬物の過剰摂取で死亡した人を知っているというアメリカ人は3割もいる(BBCによる)。私もその一人だ。近所の友人2人をコカイン中毒で亡くし、うち一人は25歳だった。裕福な家庭の長男で、優良企業で働き、性格も良く人気者だった。ハンターの環境とよく似ているが、突然あの世に行った。

それでも、ミレニアルやZ世代が多い私の近所では、マリファナや薬物入りのチョコ、ガムが当たり前に見られる。

クィーンズではVapeショップが乱立する。アルコールを含む物質依存・乱用者は人口の1割はいるとされる Photo Keiko Tsuyama

ある全国調査によると、2022年に12歳以上のアメリカ人の4900万人ちかくが、過去1年の間に薬物やアルコールなど何らかの乱用障害に苦しんでいたという。実に人口の7分の1だ。

バイデンにとって、ボーとハンターは、最初の夫人の形見でもある。上院議員になったばかりの1972年クリスマス、夫人が運転する車にトレーラーが追突し、夫人と長女が死亡した。ボーとハンターは重症を負ったが、生き残った。

バイデンは、ハンターに対し恩赦は行わないと発表。ハンターは量刑言い渡しを待つ。いずれにせよ、ハンター事件は大統領選挙には影響が薄いとみられる。しかし、バイデン自身がどれほど集中力を失わずに戦うかについては、側近が懸念を抱いているようだ。

 

 

津山恵子 プロフィール
ジャーナリスト。専修大文学部「ウェブジャーナリズム論」講師。ザッカーバーグ・フェイスブックCEOやマララさんに単独インタビューし、アエラなどに執筆。共編著に「現代アメリカ政治とメディア」。長崎市平和特派員。元共同通信社記者。

タグ :