アメリカ市場のストライクゾーンへ
米国宝酒造の挑戦
40年以上にわたり米国市場で清酒の普及に尽力してきたTakara Sake USA Inc.(米国宝酒造)。同社は2024年度、メジャーリーグのニューヨーク・メッツのオフィシャルスポンサーに就任し、清酒が米国のメインストリームに進出する大きな一歩を踏み出した。スポンサー就任の背景やメッツとの具体的な取り組み、そして米国市場における同社の展望について副社長の衛藤豊さんに話を聞いた。
Q. ニューヨーク・メッツのオフィシャルスポンサー就任の目的をお聞かせください
私どもTakara Sake USA Inc.(米国宝酒造)は、1983年にカリフォルニア州バークレーに工場を設立し、「アメリカの人たちにお酒を届け広める」というミッションを担ってきました。今ではアメリカで最大の清酒の酒造メーカーとなっています。
その過程においては、日本のオーセンティック(本物)なお酒だけでなく、日本ではあまり飲まれていないにごり酒やフルーツ入りのフレーバー酒など、アメリカの人たちに合わせて形を変え、さまざまな商品を開発してきました。多くの同業者の参入や日本からの輸入も増え、現在、清酒における全米シェア(当社調べ)は当社がトップの約30%、他のアメリカ産の清酒が合わせて約35%、そして輸入が約35%とされています。しかし、全米のアルコール市場における清酒のシェアは0.2%で、まだまだ清酒はマイナーです。
当社はさまざまな卸業者様と協力し、日本食レストランや日本のスーパーマーケットに商品を供給し、都市部では市場にかなり浸透してきたと思いますが、中部、南部、その他のエリアでは、まだまだ清酒の存在感が薄いのが現状です。そこでメインストリームへの取り掛かりを探していたところに、ニューヨーク・メッツからお声掛けをいただきました。
メッツの話を聞くと、彼らが当社に声をかけた理由がいくつかあります。一つは、球場内で日本食や清酒の人気が高まり、シティフィールド内のレストランで清酒を扱いたいと考えていたこと。二つ目は、日本人選手の存在です。千賀滉大選手に加えて藤浪晋太郎選手も加入することになり、日本人やアジア系のファンの集客が見込めると考えました。また、千賀選手、藤浪選手に日本的なものを球場内に用意したいという思いもあり、清酒を求めていたのです。そして三つ目として、彼らが「いろんな場所で見る日本の酒ブランドだから声をかけた」と説明してくれました。
このような経緯から、私どもの目的ややりたいことと、メッツ側が探し求めていたことが合致し、商品供給だけでなくスポンサー契約に至りました。メッツにとって初めての清酒のオフィシャルスポンサーです。まずはアメリカのメジャーな舞台に足掛かりができたと思っています。
今回メッツのオフィシャルスポンサーになったことで、多方面からもお声掛けをいただくようになりました。他の球団、アメリカンフットボールチームなどです。まだ我々の費用の側面から一気には広げられませんが、米国市場で清酒の認識は高いと感じました。多くの会社に、当社が本気で米国市場に参入しようとしている気持ちが伝わっていると思います。
Q. ニューヨーク・メッツと、どんな取り組みをされますか?
スパークリング清酒「澪」のデジタル広告が、球場内の電光掲示板・センターボード・通路、球場外の外壁など約430ヵ所で表示されます。そこで商品を見てもらって、レストランに誘導するという流れです。また、メッツの公式インスタグラムで約150万人のフォロワーに向けて「澪」を紹介します。さらに一部の試合では、来場者に「澪」を実際に試飲していただける試飲会も行います。
「澪」は、清酒の需要が減少する中で新たな市場を開拓するために開発されました。日本では、食とアルコールの多様化により伝統的な清酒の需要が減少しており、特に若い世代は多様な酒類を楽しんでいます。そのため、「澪」は5%の低アルコール度数とスパークリング酒の特性で若年層や軽い酒を好む層にアピールし、日本ではスパークリング酒のジャンルでシェア80%以上を占めています。この成功を受けて、米国市場でも同様の戦略で展開し、清酒の普及を図る計画です。
Q. 貴社の米国やグローバル市場、在米日本人へむけた取り組みをお聞かせください。
私どもの役割は、日本産の輸入もありますが、輸入は全体の1割にも満たない状況です。現在、アメリカの人たちの嗜好に合わせた商品を展開していますが、同時にオーセンティックなお酒にも力を入れています。かつて、アーカンソーの山田錦を初めて使用したのも当社でした。また、純米大吟醸を作り、清酒の品評会で金賞を受賞した経験もあります。アメリカ産のお酒を磨き上げ、米国市場や在米の日本人に提供することは、私たちの大きなミッションだと考えています。
さらに、アメリカ独自の商品開発にも力を入れています。アメリカで活躍する日本人にも届けたいと考えており、スーパーマーケットやレストランなど、お客様やこの業界で活躍する方々と連携し、日本食文化の広がりを支えていきたいと思っています。アメリカには多くの卸業者様がいますので一緒に日本食文化の広がりに協力していきたいと考えています。
マニアックな世界に行くと、ニッチなマーケットになってしまいます。私たちは真ん中、メインストリームに参入するために、企業としてもさらなる努力が必要だと感じています。親しみやすく、広く受け入れられる製品を目指しています。
Takara Sake USA Inc.
https://www.takarasake.com/