「不倫口止め」裁判はトランプ不利か?
「不倫口止め」裁判というのは、2016年の大統領選挙の直前、2006年に不倫関係にあった元ポルノ女優ストーミー・ダニエルズへの口止め料13万ドルを弁護士のマイケル・コーエンに立て替えさせて支払ったというもの。これを当選後の2017年にコーエンに弁済した際、トランプは一族企業の帳簿で費目を「法務費用」と偽ったので、これが、ニューヨーク州法の業務記録改竄罪に当たるとされて起訴された。
裁判の過程は連日、大きく報道されたが、注目されたのは、不倫相手のダニエルズの証言。彼女はネバダ州のホテルで、トランプとセックスをした内容を赤裸々に語り、その見返りに13万ドルを受け取ったと証言した。
一方、トランプは不倫自体を否定し、弁護側は「作り話だ」と反論。トランプの弁護側の反対尋問では、ダニエルズが話の詳細をでっち上げ、トランプ氏をゆすろうとしていたと主張した。
また、弁護側は、コーエンは有罪となった別事件を機に「トランプ氏との関係が悪化した」と指摘し、今回の裁判は「個人的な恨みで証言している」と主張。コーエンが過去の裁判で偽証を繰り返したことを持ち出し、これを本人に事実と認めさせた。
トランプ本人は当初、「証言に立つ」としていたが、戦法を変えて証言を回避し、裁判はこの時点でほぼ終わった。
驚いたのは、裁判中の4月23日に、自民党の麻生太郎副総裁がトランプタワーを訪れ、裁判所から戻ったトランプと笑顔で握手、会談したことだ。
裁判は、5月28日に最終弁論が行われ、29日からは、12人の陪審員による有罪か無罪かの評議に入る。ただ、12人の意見が一致しない場合は審理が無効となるので、まだどうなるかわからない。
「激戦州」でも僅差でトランプリード
それにしても、トランプのバイデン罵倒ぶりはひどい。それに対するバイデンの応酬もひどい。なにしろお互いに「民主主義の敵」と言い合うのだから、もはや口先だけの選挙戦になっている。
もう聞き飽きたが、今回の大統領選の結果を左右するのは「スイウィング・ステート」(swing state)とされる、民主・共和のどちらに転ぶかわからない「激戦州」である。
ただ、現在までの世論調査では、いずれの州でもトランプがバイデンを上回っている。「ウォール・ストリート・ジャーナル」紙(WSJ)の4月の世論調査では、アリゾナ、ジョージア、ミシガン、ネバダ、ノースカロライナ、ペンシルバニアの各州でトランプがバイデンを僅差だが上回っている。
民主党支持のリベラルメディアが、いくらトランプの悪評を書き立てようと、支持率は変わらない。これまで、民主党支持メディアは、トランプ前政権での側近の証言(悪口)をこれでもかと伝えてきた。
以下、そのいくつかを列記してみよう。
元側近たちはみな愛想を尽かして去った
・ペンス前副大統領「この国を率いるのは“礼節”を持つ人物であるべきだ」「私はトランプ氏を支持しない」「現在のトランプ氏は保守的立場が明確ではない」
・ジェームズ・マティス元国防長官「国民を団結させようとしない大統領は私の人生のなかで初めて。われわれを分断させようとしている」
・ジョン・ケリー元大統領首席補佐官「民主主義制度、憲法、法の支配を軽視している」
・ジョン・ボルトン元大統領補佐官(国家安全保障担当)「外国指導者から、笑い物にされている」
・ウィリアム・バー元司法長官「トランプ氏は今後、オーバルオフィス(執務室)には近づくべきではない」
・トランプの元顧問弁護士マイケル・コーエン「ドナルドはバカだ」
このように、トランプの元側近たちは、ほぼみな愛想をつかして、彼の元を去っていった。
ただ、ついこの間までトランプと指名争いをしていたニッキー・ヘイリー元国連大使は、5月22日、ハドソン研究所のイベントで、「私は大統領選でトランプ氏に投票する」と表明した。もはや、共和党はトランプに忠誠を誓わないといられない党になったようだ。
「不倫口止め」裁判中も、多くの共和党議員が連日出廷中のトランプに忠誠の姿勢を見せるために傍聴に訪れ、取材陣に対して「この裁判は政治的動機に基づいた偽りの裁判だ」などと述べていた。
(つづく)
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※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。