メロン財閥がケネディJr.に大口献金の理由
ケネディJr.の大統領選出馬それ自体が、陰謀ではないかという見方がある。それは、彼が第3の候補となったことで、バイデンの票が食われ、結果的にトランプが有利になる。つまり、トランプを勝たせたい保守勢力がけしかけたというのだ。
実際、ケネディJr.が集めた政治献金は、「FEC」(Federal Election Commission:連邦選挙委員会)によると、民主党系より共和党系の大口献金者が多い。彼らは2020年の大統領選ではトランプ氏に献金していた。
パパ・ジョンズ・ピザの元CEOジョン・シュナッター、元ペイパル社長のデイビッド・マーカスなどの名前が挙がっているが、最大の献金者はメロン財閥の後継者ティモシー・メロンだ。
彼は、ケネディJr.のスーパーPAC(特別政治活動委員会)の「アメリカン・バリュース2024」に、2024年4月までに2500万ドル以上献金してきた。メロンは20222年以降、トランプを支持するスーパーPAC「MAGA」にも1650万ドル以上を献金している。
まさに二股で、バイデン追い落としを狙っているとしか思えない。もちろん、民主党はこの献金に対して激しく抗議している。
二股のウォール街もトランプに傾く
政治献金と言えば、最近、注目を集めたのが、投資会社ブラックストーンのCEOスティーブン・シュワルツマンが、5月22日、トランプに献金すると表明したことだ。シュワルツマンは長い間、共和党の有力な献金者だったが、トランプを支持するかどうかについて、これまでずっと沈黙を守ってきた。それが、ここにきてトランプ有利と見たのだろうか。
経済政策に関しての世論調査を見ると、トランプがバイデンをリードしている。5月12-14日に実施されたロイター/イプソスの調査によると、トランプのほうが経済への取り組みが適切だと答えた人の割合は約41%で、バイデンの34%を上回っている。
とはいえ、ウォール街はもともと民主、共和両党に二股献金をする。どちらに転んでもいいように献金する例が多い。それは、大統領選挙イヤーは、アノマリーとして株価が上昇することが多いからだろう。実際、先ごろ、NYダウはついに4万ドルに乗せた。
テレビ討論会をへて11月5日の投票日へ
では、今後、大統領選はどうなるのかを、最後にまとめておきたい。すでに「バイデンvs.トランプ」で、候補者は確定しているので、2人が参加する恒例のテレビ討論会が行われるかどうかだ。
両陣営は、先日、少なくとも2回の討論会に参加することに同意した。1回目は6月27日、2回目は9月10日に開催される。前者はジョージア州アトランタで開催される予定で、CNNが放送する。
司会はジェイク・タッパーとダナ・バッシュで、無観客で行われるという。
バイデン、トランプの両氏が正式に党の候補者となるのは、共和党が7月15-18日にウィスコンシン州ミルウォーキーで行われる全国大会、民主党が8月19-22日にイリノイ州シカゴで行われる全国大会となる。
2人の選挙戦は秋から激しくなり、投票日である11月5日まで続く。
ただし、本選挙で当選が確定しても、まだその先があるかもしれない。
あるかもしれない分断の先の「内戦」
その先とは、アメリカの分断がさらに顕在化し、なにが起こるかわからないということだ。たとえば、トランプが敗けた場合、また「不正選挙だ。選挙は盗まれた」と主張し、支持者に訴えかける可能性がある。そうなると、前回の議事堂襲撃事件のような暴動が起こるかもしれない。バイデンが敗けた場合でも、暴動の可能性はある。トランプによる「移民狩り」が始まるからだ。
5月2日、調査会社ラスムセンによる世論調査が公表されたが、それによると、今後5年以内にアメリカが内戦に見舞われる可能性を尋ねた質問に対し、「非常に起こりそうだ」「いくぶん起こりそうだ」と回答した人は合わせて41%に達している。
大統領選挙イヤーに合わせて、4月12日に公開されたアレックス・ガーランド監督の映画『シヴィル・ウォー』(Civil War)が公開初週で興行成績1位を記録し、いま大ヒットしている。
映画の舞台は、連邦政府から19の州が離脱した近未来のアメリカ。大規模な分断が進み、カリフォルニア州とテキサス州が同盟した西部勢力と政府軍による内戦が起こるというストーリー。
盛り上がらない大統領選挙だが、その裏では人々の不満が高まり、社会の分断が進んでいる。
(了)
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山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。