共同通信
瀬戸内海や九州北部の沿岸に生息し“生きた化石”とも言われる「カブトガニ」を模したまんじゅうが、インパクトのある見た目で話題を呼んでいる。
繁殖地がある岡山県笠岡市の老舗菓子店が約70年前から販売するが、交流サイト(SNS)で最近注目され全国から注文が相次ぐ。店主は絶滅危惧種であるカブトガニの「保護の役に立てれば」と話す。(共同通信=三原凜奈)
江戸時代に創業の「玉利軒」7代目店主、田辺利徳(たなべ・としのり)さん(故人)が1955年ごろに「かぶとがにまんじゅう」を考案した。息子で8代目の明良(あきよし)さん(65)は「笠岡らしい土産を作りたかったようだ」と説明する。
こだわりはあんの色。カブトガニの白い血液が空気に触れると青緑色になることにちなみ、緑色の抹茶あんを一つ一つ手作業で包む。
サイズは小、中、特大の3種類で、特大は小型のカブトガニとほぼ同じ長さの約20センチ。木型を使い、甲羅の凹凸やとげなどの細部まで表現する。
商品を見た人が3月、迫力から「やばい饅頭(まんじゅう)」と表し写真付きでX(旧ツイッター)に掲載、拡散された。以来、北海道や鹿児島といった遠方から訪れる客のほか、東京などからのインターネット注文が増えたという。
2億年以上前から姿が変わっていないとされるカブトガニ。利徳さんは少年時代に海で遊び、海中で立ち上がると砂でなくカブトガニの背中に立っていた体験があるというほど身近だった。笠岡市の生息地、生江浜は国の天然記念物に指定されている。
明良さんには、SNSが普及する以前にもカブトガニまんじゅうにまつわる印象的なエピソードがある。
玉利軒では以前、かぶとがにまんじゅうをカブトガニの絵がついた包装紙に包み販売していた。
約20年前、その包装紙をたよりに店を訪れた老婦人がいた。亡き夫の財布に、きっちりとたたまれて入れてあったのを見つけ「どんなものが包まれていたのだろう」と気になり、店を探し当てたのだという。老婦人は「食べてみたい。仏壇に飾りたい」とまんじゅうを購入した。
明良さんは「カブトガニが人々にとってもっと身近な存在になれば」とまんじゅうに思いを込める。