この記事の初出は2024年6月4日
生成AIをつくったのはすべてアメリカ企業
言うまでもなく、生成AIの先駆となった「Chat GPT」をつくったのはアメリカの新興ハイテク企業「Open AI」であり、その後次々に登場した生成AIもすべてアメリカのハイテック企業がつくった。
「GPT-4o」の発表からすぐ、グーグルは生成AIの基盤モデル「Gemini 1.5 pro」を日本語など35以上の言語で一般公開すると発表した。明らかな「GPT-4o」への対抗策である。これに、ビッグテックであるアップル、マイクロソフトも追随し、今後、次々生成AIの新モデルを出してくるだろう。
いまや全世界の人間が、アメリカのビッグテックがつくり出した世界に生きている。マイクロソフト、グーグル、アップル、アマゾン、フェイスブック、ネットフリックスなど、全世界でサービスを展開している。
この状況を見れば、なぜ、「アメリカは衰退する」「世界は多極化する」などと言えるだろうか。ほぼすべてアメリカ企業である。今後、AIが進展すればするほど、アメリカの世界支配、覇権は強まるとしか言いようがない。
「人間対サル」ではなく「人間対金魚」
ところが、日本では、このAI革命に関する報道が少ない。そのせいか、国民の意識も追いついていない。いまだに、紙の健康保険証のマイナンバーカードへの移行に根強い反対がある「デジタル後進国」である。
私の周囲の人間(高齢者ばかりだが)を見て思うことがある。それは、彼らが「AIが人間を超える」「AIと人間が共生する世界がくる」などとはけっして信じていないということ。それは、映画の世界の話だと思っているということだ。
おそらく、日本の高齢政治家、高齢企業経営者たちも同じだ。そうでなければ、ここまでデジタルに遅れることはない。
そんななかにあって、英国の半導体ファブレス、「アーム」(Arm Holdings plc)を買ったソフトバンクの孫正義社長だけは違う。
昨年の講演で、次のようなことを述べている。
「10年以内にAGI(汎用人工知能)は人類より少なくとも10倍賢くなり、その次の10年には1万倍くらいになる。1万倍とは『人間対サル』ではなく、もはや『人間対金魚』だ」
いまやアームは、AIシフトを進めるソフトバンクの中核企業になっている。
AI投資、世界12位でアメリカの100分の1「超知能」「シンギュラリティ」は目前に!
5月8日、マイクロソフトとリンクトインが発表した「Work Trend Index 2024」。これは世界31カ国、3万1000 人を調査し、「AIが働き方と労働市場をどのように変えるのか」をまとめたものだが、それによると、「仕事でAIを活用している知識労働者の割合」は、中国が91%、アメリカが71%なのに対し、日本はわずか32%である。
次は、5月7日にスタンフォード大学が発表した「AIに対する2023年の各国の民間投資額」のランキング。
1位 アメリカ672億2000万ドル
2位 中国77億6000万ドル
3位 英国37億8000万ドル
4位 ドイツ19億1000万ドル
5位 スウェーデン18億9000万ドル
6位 フランス16億9000万ドル
7位 カナダ16億1000万ドル
8位 イスラエル15億2000万ドル
9位 インド13億9000万ドル
9位 韓国13億9000万ドル
11位 シンガポール11億4000万ドル
12位 日本6億8000万ドル
第1位のアメリカが672億2000万ドルとダントツに高く、第2位の中国はその約10分1。日本はなんと12位で、韓国、シンガポールより劣り、アメリカの100分の1にすぎない。
AIが変える未来をわかっている指導者は?
世界の指導者のなかで、AIと人類が共生する未来、AIを制さないと未来はないと、わかっている人間がどれだけいるだろうか?
少なくとも、日本の岸田首相と自民党の長老議員たちはなにもわかっていない。ロシアのプーチン大統領もそうだろう。いまや戦争もAIなしでは成り立たないのに、旧来通りの地上戦で陣取り合戦をやっている。愚かと言うほかない。
アメリカのバイデン大統領も同じで、高齢すぎてわかっていない可能性がある。ただし、アメリカ政府のブレーン、企業トップらはみなわかっているので問題はない。
中国の習近平主席もわかっている指導者の1人だ。もちろん、欧州各国の首脳たちもみなわかっている。
先のランキングで、第3位が英国(37億8000万ドル)、4位がドイツ(19億1000万ドル)、5位がスウェーデン(18億9000万ドル)、6位がフランス(16億9000万ドル)と、欧州各国がランクされていることが、それを物語っている。
(つづく)
この続きは7月12日(金)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。
※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。