地球温暖化でワインが激変! 生産減、品質変化、産地移動、価格高騰 (下)

この記事の初出は2024年6月11日

2023年は世界のワイン生産で最悪の年に!

 以上、温暖化がワイン造りに与える影響はわかった。
 それでは、実際のところ、産地ではなにが起こっているのだろうか?
 すでに報じられているが、昨年、2023年は、世界におけるワイン生産が過去60年間で最低に落ち込んだ年だった。国際ブドウ・ワイン機構(OIV)によると、2023年のワイン生産量は前年の2022年より、約7%も減少した。
 これは、フランス、イタリア、スペインといった欧州の主要生産国が記録的な干ばつや大雨の被害に見舞われたほか、オーストラリアやチリ、南アフリカといったニューワールドでも、悪天候続きで生産量が大きく落ち込んだためだ。
 とくにイタリアはひどい。イタリアにいたっては前年比12%減で、生産首位の座をフランスに明け渡した。
 南イタリア、シチリアでは、1月から6月にかけて平年より350mm以上も多い、信じられないほどの降雨があって、ブドウ樹がことごとく水の被害を受けた。オーストリア、クロアチアでは大洪水が発生した。
 逆にスペイン、ポルトガルでは、気温40度を超える灼熱と熱波が発生して、ブドウの実が痩せたが、9月の収穫前に振った大雨により、重さを取り戻して豊作となった。ただし、これは一部の地域だけで、スペイン、ポルトガルとも全体では生産量を大幅に落とした。
 イベリア半島では、毎年、夏の干ばつが続いて、生産に大きな影響を与えてきた。そのため、ピレネー山脈の高地に移動したワイナリーもある。

ブドウ栽培に適さない気候に変わった

 フランスのボルドーも昨年は最悪だった。
 暖冬でシーズンの始まりは順調だったが、その後、異常な大雨が続き、さらにシーズン後半には熱波による干ばつが襲った。これにより、ブドウの成熟は阻害され、そこに、うどん粉病やベト病というブドウにとっての大敵の病気が蔓延した。
 近年、ボルドーの気候は大きく変化し、高温多湿型に変わってきているという。つまり、ブドウ樹の栽培には適さない気候になりつつある。すでに、ボルドーのアキテーヌ地方では1.5度も温度が上がっているという報告がある。
 干ばつには、灌漑設備の導入で対処できるが、熱波と豪雨には対抗手段がない。しかも、灌漑に大きなコストがかかる。
 もちろん、気候が変わってしまったのは、ボルドーなどの欧州の生産地ばかりではない。
 ボルドーと同じような気候変動に襲われているのが、アメリカ西海岸とオーストラリアである。どちらも、毎年のように干ばつが起こり、豪雨による洪水も起こり、そのうえに、大規模な山火事まで起こっている。ブドウ畑が煙で覆われると、ワインに煙の痕跡が残って味が変わってしまう。

産地を北上させるという最後の選択

 温暖化の影響から逃れるために、現在、さまざまなことが行われている。その一つに、ブドウそのものを暑さに強いものに変えるという「品種改良」があるが、現在まで大きな成功を収めていない。
 結局、「このままではジリ貧になるだけ。それなら、北に行こう」と、ブドウの栽培地を北に移すという「産地移動」が、じょじょに進んでいる。おそらく、これが、ワインを生産するための最終選択だろう。
 ワインの生育環境に適しているのは、北緯30~50度、南緯20~40度の年間平均気温が10~20度のエリアとされる。北半球では、フランス、イタリア、スペイン、ドイツ、ルーマニア、オーストリア、アメリカ、そして日本の一部の地域がこれに該当する。また、南半球では、チリ、アルゼンチン、オーストラリア、ニュージーランド、南アフリカなどが挙げられる。
 ドイツのガイゼンハイム大学のハンス・シュルツ学長によると、かつてのワイン産地の北限は独中西部マインツなどが位置する北緯50度とされてきたが、現在は北欧の一部地域が含まれる北緯57度まで北上したという(時事通信2024年1月配信記事)。
 実際、欧州では、これまでブドウ栽培には不向きとされた英国南部やデンマーク、スウェーデン南部でも、ワイン生産が始まっている。
 アメリカでは、オレゴン州、ワシントン州、ニューヨーク州など北部の州で、ワイン造りが盛んになっている。
(つづく)

この続きは7月18日(木)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 

※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

 

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

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