この記事の初出は2024年6月11日
国連の「世界幸福度ランキング」で、上位を独占する北欧諸国の人々は、本当に幸福なのか? 北欧諸国は、デジタル国家ランキングでも世界の上位を占めていて、デジタル化により人々のプライバシーはほとんどなくなっている。
フィンランドでは個人の課税所得が公開され、デンマークでは政府機関が、国民1人1人が誰をパートナーにしているかまで、個人情報をほぼすべて取得している。スウェーデンでは、誰もが他人の収入から勤務先までネットで検索できる。
こうなると、中国並みの「監視国家」と言えるが、国民に大きな不満はない。日本人の私としては、ちょっと信じられない社会だが—–。
「幸福度ランキング」でトップ10を独占
日本では、北欧の人気が高い。
北国の恵まれた大自然、映画「魔女の宅急便」に出てくるような独特の街並みと家々、シンプルでセンスの良い家具や雑貨、そしてスローライフ。慌ただしく生きることしかできない日本の都会人にとって、まさに、北欧は憧れの地だ。
北欧と言えば、フィンランド、デンマーク、スウエーデン、ノルウェー、アイスランド(いちおう北欧)の北欧5カ国は、世界の国々のなかでも幸福度が高い国々として知られている。
2024年版の国連「世界幸福度ランキング」を見ると、1位がフィンランド(7年連続でトップ)2位がデンマーク(6年連続で2位)、3位がアイスランド、4位がスウェーデン、7位がノルウェーで、すべてトップ10に入っている。
「幸福度」は人々が幸福と思うかどうかの指数
ちなみに、日本は51位と、はるか下位。
欧米諸国では、カナダが14位、英国が20位、アメリカが23位、ドイツが24位、フランスが27位、スペインが36位、イタリアが41位。アジアでは、シンガポールが30位、台湾が36位、韓国が日本のすぐ下の52位となっている。
このランキングは、ポイント制で、トップ10諸国はみな7000ポイント以上(トップのフィンランドは7741ポイント)、11位から50位は6000ポイント台となっている。日本は6060ポイント。
このポイントは、調査国・地域の人々に「人生に対する評価」について質問し、その回答に基づいてつけられている。具体的には、「自分にとって最高の人生を10」「自分にとって最悪の人生を0」として、0から10までの11段階の点数で幸福度を算出している。
つまり、ここで言う「幸福度」とは、そこの国・地域に住む人々が幸せと思っているかどうかに基づいている。となると、それは極めて主観的なものである。
もっと踏み込んで言えば、そこの国・地域に住む人々の人生観によって違ってくる。
このことを踏まえて、世界でいちばんデジタル化が進み、国民のプライバシーがほとんどない北欧の現実を見てみたい。
全国民の課税所得をいっせいに公開する日
11月1日は、“世界一幸福な国”のフィンランド人にとって、もっとも“不幸な日”である。この日の午前6時ごろから、首都ヘルシンキの国税庁の前には行列ができる。まだ暗いというのに並んでいるのは、午前8時から国税庁が公開する全国民の課税資料を一刻も早く手に入れるためだ。
この資料に基づいていて、フィンランドのタブロイド紙は記事をつくる。あの政治家はいくら稼いだか? 去年売れた歌手はいくら稼いだか? 成功したIT企業の社長はいくら稼いだか?などが記事になって、人々の話題に上る。
有名人だけではない。課税所得が公開されるのは全国民だから、たとえば、同じ職場で働く同僚がいくら稼いだのか、隣に住んでいる人間の所得はいくらかなども、知ろうとすればわかる。
それで、「お前は、なんであんなに稼いだのか?」「なんであいつはオレより稼いでいるか」などが、この日、酒場での話題になる。
(つづく)
この続きは7月22日(月)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。
※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。