この記事の初出は2024年6月11日
11月1日を「全国嫉妬の日」と呼ぶ理由は?
こんなことは日本では考えられないが、フィンランドはこれが当たり前の「年中行事」となっている。
このことを、私は、娘の夫を通じて知って本当に驚いた。娘の夫は、フィンランド人である。彼に「稼ぎは究極のプライバシーではないか?それでいいのか?」と言うと、「いまさら気にしてもしょうがない」と言った。
フィンランドは、世界でもトップクラスのデジタルガバメントとなっていて、ほぼすべての個人情報を情報公開法に基づいて公開している。
フィンランド人は、この日を、自嘲を込めて「全国嫉妬の日」(National Jealousy Day)」と呼んでいる。たしかに、「人がいくら稼いでいるか」などというカネに関するプライバシーを公開することは、嫉妬心を助長する。妬み、やっかみを生む。しかし、それを知りたいというのもまた、人間の一つの欲望である。
日本でもかつては、高額の課税所得者(高額納税者公示制度)の名前は公開された。いわゆる「長者番付」である。しかし、2005年の公開を最後に行われなくなくなった。その理由は、「所期の目的外に利用されている面がある」「犯罪や嫌がらせの誘発の原因となっている」などだった。
日本人は嫉妬心が人いちばい強いのだろうか。
フィンランドではネットで全部できる
フィンランド人は、日本人が個人情報にうるさいのを不思議がる。そして、それ以上に不思議がるのが、民間から公共まで、手続きの多くが紙ベースなことだ。
娘の夫は在留許可証の取得、住民税や所得税の支払い、確定申告、病院の手続きなど、ほぼすべてが紙ベースであることにいつも腹を立てていた。
「フィンランドではネットで全部できる」と言い、「なんで日本のような先進国がこうなのか」と嘆いていた。
日本でもマイナンバーカードがようやく普及したが、いまだにマイナンバーによって、オンラインで公共サービスを受けることが一般化していない(マイナンバーという個人識別番号制度とマイナンバーカードを混同している人が多すぎる)。
しかし、フィンランドでは、ほぼすべての公共サービスが、「個人識別番号」(一般的に「IDナンバー」と呼ばれる)で受けられる。
IDナンバー1つでOKの便利さの裏には?
フィンランド国民は、生まれたときに病院から直接「登録局」(フィンランド語で「Maistraatti」)に情報が送られ、IDナンバーが自動的に付与される。ナンバーは、生年月日から6桁の数字と3桁の数字と1つのアルファベットによる10個の英数字で構成されている。
このIDナンバー1つで、ネットを通して、あらゆる公共サービスを受けられる。たとえば、「社会福利局」(フィンランド語でKela)からもらえる生活保護補助金、低収入家賃補助金、大学生の勉学補助金、起業家の起業補助金などの資格を検索し、申請できる。
もちろん、税務申告、口座開設、会社登記なども、IDナンバー1つでOK。役所に出向く必要はない。しかも、ネットを通してだから、費用もほとんどかからない。たしかに本当に便利である。
娘の夫は、日本の印鑑作成、印紙購入、印紙貼り付けなどの手続きが、「理解できない。なんでこんな面倒なことをするんですか?」と、目を丸くしていた。
ただし、このようなデジタルのシステムを、利用者側でないサービス提供側(つまり行政機関、政府)から言うと、IDナンバー1つで、すべての個人情報にアクセスできるということになる。つまり、個人のプライバシーはないに等しい。フィンランド国民は、常に見られている。裸で歩いているのと同じだ。
(つづく)
この続きは7月23日(火)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。
※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。