津山恵子のニューヨーク・リポートVol.37
若い人を包む「悲観」と「不信」
選挙ではダブルヘイターも
7月24日、数千人の若い人が猛暑をものともせず、ワシントンD.C.の連邦議会議事堂(キャピトル)近くに集まった。アメリカがイスラエルへの武器支援をやめ、イスラエルがパレスチナに対する攻撃をやめるように求めるデモだ。そこで警察が催涙ガスを使い、多くの人が熱いアスファルトの上に座り込んだ。
目が開けられず、痛む皮膚を鎮めるため、ペットボトルの水を次から次へと頭からかけ合う。ボランティアが中和剤を目に入れようとして、指で目をこじ開けている。
警察は「警告に従わなかった」と説明。が、平和を求めて全米から集合した若い人は、警察の過剰な攻撃に何を思うだろうか。声をひろってみた。
ニューヨークでバーテンダーをしながら音楽活動をするブレンダン・マッケンナ氏(24)は、 「コロンビア大でも今年、警察が100人もの学生を逮捕した。こんな過激な仕打ちを受けると、不満や悲観が広がり、前向きな姿勢で政治を信じる気にはならなくなる」 と話す。
彼は2022年、ボストンで行われた大規模デモに弟と参加。警察がデモ参加者を蹴散らし、逮捕者が出る光景を目の当たりにした。上空を警察ヘリが行き来し、州兵までが動員されていた。
同時に「格差」に対する不満も高まる。 「2大政党制が、ぬくぬくと長く続き過ぎた。労働者階級を欺き、きちんとした説明もせず、お高くとまった貴族の家がお互いにいがみ合っているだけ。結局、金持ちとウォール街の救済ばかりしてきた」
ワシントンのデモで出会ったデトロイト出身のアイリスさん(26)は、「選挙なんてジョーク」と鼻で笑う。議事堂の有名なドーム屋根から炎が出ている油絵を集会の最中に描いていた。腐敗した議会が、内側から崩壊し、人々が見守る中で炎を吹き出す光景だと説明してくれた。 「結局、金持ちや企業が莫大な政治献金をして、当選させたい人を選ぶだけ。ハリスにしても、バイデンと同じでイスラエルに武器を売るのをやめる訳ではない」
バイデン大統領(81)が大統領選撤退を発表し、指名したカマラ・ハリス副大統領(59)が、トランプ前大統領(78)と対決する。しかし、若者の中には民主・共和の2大政党の候補に投票するのを疑問視する「ダブルヘイター」が、過去の選挙戦中よりも目立つ。
一方で、シンガーのCharli xcx(31)がハリス氏は「Brat(身近に感じるちょい悪の女の子)」とSNSで発信。若い人の反響を得ている。ハリス氏は、彼らの信頼を呼び戻せるのか。ニューヨーク・タイムズが24日発表した支持率は、トランプ氏が48%、ハリス氏が46%となっている。(写真と文 津山恵子)
津山恵子 プロフィール
ジャーナリスト。専修大文学部「ウェブジャーナリズム論」講師。ザッカーバーグ・フェイスブックCEOやマララさんに単独インタビューし、アエラなどに執筆。共編著に「現代アメリカ政治とメディア」。長崎市平和特派員。元共同通信社記者。