共同通信
パキスタンの首都イスラマバードにある老舗食堂で、庶民向けのハンバーグのような肉料理「チャッパル・カバーブ」を40年以上、一筋に作り続けている男性がいる。世は移り変わっても味はそのまま。今やイスラマバードで最もおいしいとの評判を博すまでになった。(共同通信=和田真人)
1970年代半ばに開店した「ジノーズ」の調理場で、リアーカト・カーンさん(56)はひときわ大きな鉄板でひたすら肉を焼き続けている。鉄板の奥にあぐらを組んで座り、右手でひき肉とスパイスをこね合わせる。わずかに傾いた鉄板の低い方に油がたまっていて、熱い鉄板の上でペタペタと平らにした肉を油の中に滑り込ませる。
チャッパルとは、パキスタンの国語ウルドゥー語で「サンダル」を意味する。チャッパル・カバーブは平らで大きな肉料理だ。「決め手は肉の質。若い牛の新鮮な肉でなきゃ」。肉屋から毎日40キロを仕入れ、カーンさんの目利きでこのうち7~8キロは鮮度が落ちるとして返却する。
1983年、15歳か16歳の時、チャッパル・カバーブの料理人だった父に連れられて家族と共に北西部スワト地区からより良い生活を求めて出てきた。カーンさんは学校にも行かず父からカバーブ作りを学び家計を助けた。父の死後、カバーブ作りの後を継いだ。
毎日10時間以上座り続け、百数十枚を作る。鶏肉や卵入りも選べ、価格は1枚330パキスタンルピー(約190円)から。「カバーブが売れて家族を養えて、幸せに暮らせればそれで十分。お客さんが『おいしかった』と言ってくれるとうれしくなる」と笑う。
口にすると、カリッとした食感の後に肉のうまみとピリッとした辛さが広がる。ここでしか買わなくなったという政府職員ムハンマド・イルファンさん(34)は「肉の質と香りが抜群さ」と手放しで褒めた。