この記事の初出は2024年7月9日
温暖化から逃れるための2つのポイント
もう、これまでに何回か書いてきたが、すでに気候オアシスを求めての「環境移住」(environmental migration)は始まっている。富裕層の一部は、「ハイランド&ニューノース」(高地と新しい北)を合言葉に、居住地から別荘、資産までを移そうと、世界中で最適地を探している。
一部の富裕層だけではない、目覚めた中間層も将来を考え、温暖化の影響を深刻に受けるところに居住する、資産を持つなどの行動を避けるようになっている。
ところが、目覚めていない人々は、これまでと同じ行動を取っている。たとえば、タワマンが人気の東京のベイエリアに住む、あるはここに不動産を買うなどは、愚かな行動ではないだろうか。
温暖化からの回避行動は、ヒートによる気温上昇(猛暑)と豪雨から逃れること、海面上昇や高潮、洪水による水没から逃れることの2点が基本だが、東京ベイエリアはどちらにも適していない。とくに水没のリスクが大きすぎる。
東京は世界でもっとも水害に弱い都市の一つ
IPCCの第5次報告書(AR5)によると、日本近海における海面水温の上昇率は世界平均の2倍以上で、海面上昇も進んでいる。
そのため、東京都は2022年11月に海面上昇や台風の強大化に備えて、沿岸部の防潮堤を段階的に嵩上げする計画案をまとめた。対象は、現在ある防潮堤全体の半分に相当するおよそ30㎞で、これを最大1.4m高くするという。
しかし、まだ取りかかったばかりで、どこまで効果があるかは未知数だ。
水没リスクが高いのは、ベイエリアと東京4区(江東区、江戸川区、墨田区、葛飾区)の海岸沿いである。東京4区には、海抜ゼロメートル地帯があり、防潮堤で守られているが、今後ありえる超大型の台風による高潮、洪水に耐えられるかはわからない。
東京湾の満潮時の海水面の高さは、干潮時より約2m高くなる。また、東京全体は海抜が低い。東京駅の地下街は海抜マイナス10m、浜松町駅周辺は海抜1mほどだ。東京は、世界でももっとも水害に弱い都市の一つなのである。そのうえ、今後、夏はますます高温になり、ヒートアイランド現象も加わるので、住環境としては悪化する一方だ。
水没都市ランキングで最上位はジャカルタ
現在、世界の多くの海岸沿いの都市が、温暖化による水没リスクにさらされている。各種調査から「水没都市ランキング」までつくられている。
それらを見ると、上位にくる主要都市は決まっている。
日本では、東京、大阪、名古屋など。アジア・オセアニアでは、香港、ジャカルタ、ホーチミン、ヤンゴン、マニラ、バンコク、シンガポール、コルカタ、ムンバイ、シドニーなど。欧州では、アムステルダム、ベネツィア、ナポリ、リスボンなど。アメリカでは、ニューヨーク、マイアミ、ニューオーリンズ、ヒューストン、チャールストンなど。南米では、レシフェ、ポルト・アレグレなど。アフリカではラゴス、アレクサンドリアなどが挙がっている。
このなかで、最上位にくるのは、「世界一早く水没する都市」と言われたジャカルタだ。ジャカルタはこれまで何度も洪水に見舞われ、2021年12月の大洪水では、一部市街地がなんと2.7mも水中に沈んだ。そのため、インドネシア政府は首都移転を決め、現在、ボルネオのジャングルのなかに新首都ヌサンタラを建設中だ。
バンコクもたびたび洪水に見舞われ、年間2cmから3cmのペースで海面上昇が進んでいる。そのため、英「ガーディアン」紙は、スワンナプーム国際空港が2030年までに水没する可能性を指摘した。
アメリカでは、マイアミの海面上昇が最速で進んでいる。そのため、全米でいちばん早く消滅する都市とされている。しかも、フロリダ周辺の海水温度は38.4℃を記録したことがあり、まるでお湯である、この海水温だと、サンゴは白化して死んでしまうという。
この続きは7月30日(火)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。
※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。