もう止めるのは不可能! 温暖化から逃れる「気候オアシス」はどこか? (下)

この記事の初出は2024年7月9日

海岸沿いの物件より海岸から離れた物件

 不動産業界は、温暖化リスクを織り込み始めた。
 アメリカでは、コロラド大学とペンシルバニア州立大学の研究者らが取引物件を調査し、都市の海岸沿いの物件が、海岸から距離のある物件より平均で約7%安く販売されていることをつきとめた。
 これは、海沿いの都市なら、ほんぼどこでも同じように起こっている。かつては海岸沿いの物件のほうが人気があったが、いまでは海岸から離れた高台にあって海が望める物件のほうが人気になっている。したがって、価格も高い。
 不動産リサーチ会社が調査したところ、不動産購入者の約10%が、「地球温暖化のリスク」を考慮していた。
 ニューヨークでは、ハドソン川やイーストリバー沿いの地域で、10年以内に海面が1フィート(約30㎝)以上上昇する可能性があることが、州環境保全局(DEC)の報告書で判明した。そのため、マンハッタンでは防潮堤工事が始まったが、ウオーターフロントの物件の価格は低迷している。

香港とシンガポールの“水没”不動産下落

 アジアでアメリカの“水没都市”と同じようなことが起こっているのが、香港とシンガポールである。
 香港では、ここ数年、不動産価格がピークから下落を続けている。これは、中国の不動産バブルの崩壊が大きく影響しているが、2019年の民主化デモの鎮圧、温暖化進行リスクも影響している。
 ブルームバーグの最近の報道によると、商業用不動産の損失分と合わせると、香港の不動産から2019年以降に少なくとも2兆1000億香港ドル(約42兆3000億円)の価値が失われたという。
 シンガポールは、コロナ禍で不動産価格の下落を受けたが、ここのところ持ち直している。しかし、販売は低迷中だ。
 島国のシンガポールは、国土のほとんどが海面から15mしかない低地で、約30%は海抜がわずか5mしかない。そのため、海面上昇の影響は大きいとされ、水害のリスクも懸念されている。
 シンガポール政府は、新築物件を海抜3 m以上のところに建てることを義務付けてきたが、3mでも危ないという見方が出て、防潮堤の建設に乗り出している。
 こうした点から、個人の住居物件は、海沿いより、郊外のほうが人気だ。

温暖化の進行による「勝ち組」と「負け組」

 マッキンゼーでは、気候変動のリスクを信用評価基準に取り入れている。また、ムーディーズでは気候変動の物理的リスクによる被害額を推計している。
 こうしたレポートから、温暖化が最悪シナリオで進行した場合の「負け組」と「勝ち組」が導き出される。
 「負け組」上位10カ国は、サウジアラビア、香港、マルタ、マレーシア、アルジェリア、フィリピン、バーレーン、シンガポール、タイ、カタール。最大の「負け組」はサウジアラビアで、2048年までにGDPは10%縮小するという。これに対しての「勝ち組」は、スウェーデン、デンマーク、オーストリア、スロベニアなど欧州諸国である。
 世界のGDP上位国では、カナダ、イギリス、ドイツ、フランス、アメリカが「勝ち組」で、ブラジル、ロシア、インド、中国が「負け組」とされる。とくにインドは、経済的にもっとも打撃を受けるとされ、数億人単位での農村部から都市部への気候移住が起こるという。
 しかし、本来、温暖化に「勝ち組」などありえない。たとえ、一時的に経済が潤っても、いずれどの国も「負け組」になる。

この続きは8月1日(木)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 

※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

 

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

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