この記事の初出は2024年7月9日
2070年までに30億人が居住不可能に
やや古いがCNNの報道(2020年)によると、米科学アカデミー紀要に科学者チームによる「地球温暖化が続いた場合、現在30億人が暮らしている場所が、50年後には暑すぎて人の住めない場所になるかもしれない」という研究が発表された。
この研究では、気温が1℃上がるごとに、10億人が別の場所への移住を余儀なくされるとし、現在、世界の人口の大部分は、年間平均気温が11~15℃の地域に集中しているという。
人類は過去6000年にわたって、そうした環境に住み続けてきた。しかし、空調などがあっても、今後は、その状況が変化を強いられる。地球の気温は2100年までに3℃の上昇が予想されるが、陸上は海上に比べて温暖化のペースが速い。そのため、人が経験する気温は2070年までに約7.5℃も上昇する。
この変化は劇的で、食糧生産や水資源の確保に重大な影響を及ぼし、移住に伴う衝突や紛争を発生させるというのである。
不動産価格が下落し保険料が急騰した豪州
世界の不動産市場の話に戻すと、温暖化で影響を受け始めたのが保険である。海面上昇や熱波によるリスクが高まるにつれて、その影響を受ける可能性がある不動産に対する保険料が上昇している。
たとえば、オーストラリアは近年、豪雨による洪水がたびたび発生している。2年前の2022年3月、南部のニューサウスウェールズで発生した大洪水は100年に1度と言われ、最大の被害地リズモアは街全体が水没してしまった。
リズモアはサーフィンやヨガで有名なバイロンベイの約50キロ内陸にある、人口約4万人の美しい街。歴史的な劇場やギャラリーが充実しているうえ、川べりの熱帯雨林の美しさから人気の住宅地である。ところが、洪水後に不動産価格は3割以上下落し、災害保険料が大幅に上昇した。そのため、被害地域の住宅や企業は保険に加入することが困難になったという。
オーストラリアでは、洪水のほか、森林火災も大規模に起こっている。オーストラリアの不動産サイト「ドメイン」によると、森林火事の危険度ランクが1段階上がるごとに住宅の価値は2%下がり、水位50㎝の洪水の可能性が1%上がるごとに0.8%下落するという。
温暖化に無関心でいると“気候難民”になる
温暖化リスクによる不動産価格の下落と保険料のアップは、すでに日本でも起きている。台風や豪雨などの災害が相次ぎ、保険金の支払いが増えているため、保険各社はここ数年、毎年のように保険料を引き上げている。
すでに始まった「猛暑」を体験すれば、もはや温暖化を疑うことなどできない。しかし、日本人のほとんどは、温暖化に対して対策を取っていない。まして、温暖化のリスクを考慮して生活を変える、「環境移住」をするなどいう人は、いまのところ一握りである。
しかし、あと1℃でも気温が上がれば、多くの人が動き出すだろう。そのときは、現在住んでいるところが居住不適地になり、気候オアシスの不動産は値上がりしているかもしれない。
暮らす、住むには、気候や環境以外に、仕事、職業など、もっと別の大きな要素がある。しかし、これからは気候がいちばんになるかもしれない。すでに、世界各地で“気候難民” (climate refugees)が発生している。私たちがそうならないという保証はない。
【読者のみなさまへ】本コラムに対する問い合わせ、ご意見、ご要望は、
私のメールアドレスまでお寄せください→ junpay0801@gmail.com
山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。