この記事の初出は2024年7月16日
今年の焼肉店の倒産は過去最多のペース
焼肉店は、飲食店のなかでも設備的に換気がよく、新型コロナウイルスに感染しにくいとされたため、コロナ禍の最中でも好調な経営を続けていた。
ところが、今年になって、倒産が相次いでいる。
帝国データバンクが2024年7月3日に発表した「焼肉店の倒産動向(2024年1〜6月)」によると、焼肉店の倒産は2023年の同時期の2.5倍の20件で、過去最多のペースとなっている。このまま推移すると、年間としてはこれまでもっとも倒産が多かった2019年の29件を大きく上回るという。もちろん、閉店や廃業は、倒産の比ではない数に達しているとみられる。
個人経営など小規模の焼肉店の場合、円安が決定的に影響している。電気・ガス代や人件費などのコストに加え、米国産や豪州産などの輸入牛肉、さらには低価格メニューとなる豚肉も価格が高騰し続けているからだ。
テレビ朝日のニュース番組で取り上げられていた江東区の焼肉店「雪月花」の店主は、「6重苦に直面している」と嘆いていた。「人件費の上昇」「エネルギーコスト増」「異常気象の影響」「原料価格の高騰」「物流コスト増」「為替変動の影響」である。つまり、なにもかもが値上がりして、とてもこれまでの価格ではやっていけない。かといって、値段を上げると、客足が一気に遠のくという。
固定費が大きく利益率が薄いビジネスモデル
そもそも、飲食業界は約8割が個人経営か中小事業主である。個人経営なら人件費が浮くという利点があるが、ビジネスモデルとしては、固定経費が大きい割には利益率が低いという。
業界に詳しいフードライターはこう言う。
「飲食店は利益率が10%もあればいいほうで、5〜7%といったところがほとんどです。そのため、1カ月の売上が50%になった場合、約2カ月分の営業利益が吹き飛びます。コツコツ利益を溜め込んでも、客足が止まれば、赤字転落は一瞬です」
飲食店経営のポイントは、「FLR」という3つのコストをコントロールすることだと言う。
「FはFood(フード)、いわゆる原材料費、LはLabor(レイバー)で人件費、RはRent(レント)で家賃です。一般的な飲食店の場合、FLRコスト比率は70%前後。現在は、Fが高騰、Lも人手不足で高騰、Rの家賃も上がっています。
さらに、キャッシュレス、ロボットやタブレット注文の導入などの設備投資もあり、もはや利益が出ない構造になってしまいました」
最低賃金を上げたら居酒屋は潰れる
現在、政治家は人気取りのため、企業に政治の圧力で賃上げを強制し、さらに最低賃金を引き上げようとしている。
しかし、最低賃金を上げた場合、多くの飲食店が潰れる可能性がある。とくに居酒屋やラーメン店などは厳しい。となると、失業者が増えるので、かえって景気は悪化してしまう。
すでに、東京都や神奈川県、埼玉県などの首都圏、愛知県、大阪府、福岡県などでは、最低時給が1000円を超えている。居酒屋やラーメン店ではいまや時給1200円でも、働き手が集まらなくなっている。
なぜなら、ほかの業界では、飲食業界以上に時給を上げているからだ。その結果、人手不足のために営業時間を短縮したり、定休日を増やしたりしている店も多く出ている。
こんな状況なのに、さらに最低賃金を上げれば、店側としては人件費を削ずらざるをえなくなり、店員数を減らす。人件費は固定費だから、その範囲でしか人を雇えなくなるからだ。(了)
この続きは8月6日(火)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。
※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。