津山恵子のニューヨーク・リポートVol.38 民主党は猫おばさん、共和党は変人?危険な流行語勝負の選挙戦

 

津山恵子のニューヨーク・リポートVol.38

民主党は猫おばさん、共和党は変人?
危険な流行語勝負の選挙戦

 

ミームではないが、トランプ氏暗殺未遂事件直後のTシャツを着る支援者。「恐れを知らない」という単語がバズを狙っている

 

 「子どもがいない猫おばさんたち(childless cat ladies)」の可愛いTシャツをオンラインで買った。「トランプは変人(Trump is weird)」というTシャツも画面に表れた。  

米大統領選挙戦が過熱するに伴い、民主・共和両陣営が発したキャッチーな言葉が目立つ。あっという間におもしろ映像のミーム(meme)で拡散し、Tシャツや看板に印刷されて発売される。 「人生に惨めな思いをしている子どもがいない猫おばさんたち」は、トランプ・共和党の副大統領候補となったJ.D.バンス上院議員の発言。カマラ・ハリス大統領候補を担ぐ民主党は、子どもがいない人々に支えられている、とテレビ番組で語った。ピート・ブタジェッジ運輸長官(同性愛者)、アレクサンドリア・オカシオ-コルテス下院議員(独身)などの名前も挙げている。「子どもがいる人々をもっとサポートするべきだ」と締めくくった。  

これをきっかけに、猫好きや女性らが立ち上がり、「Cat Ladies for Kamala」「Childless Cat Ladies Vote」といったTシャツがオンラインでどっと売り出された。ハリス氏も夫エムホフ氏との間に子どもはいない。このため、子どもがいない女性や猫に対する差別だとして「5番街を猫がデモ行進する」といったガセネタも飛び交った。

「トランプは変人」は、民主党の副大統領候補となったティム・ウォルツ・ミネソタ州知事が発信源。実は7月にインタビューで「あちら側には、変な人々がいる」と共和党のことを揶揄していた。しかし、若い人がSNSを使って拡散し、あっという間に「トランプは変人」というTシャツができた。  

Tシャツにすぐなりそうなフレーズは、実は長年トランプ氏の専売特許だった。「根性がひん曲がったヒラリー」など根拠もなく、バシバシと決めつける。ただ、分かりやすいためにファンには大ウケする。「偉大なアメリカを復活させる(Make America Great Again)」にしても、いつが偉大だったのか、何をもって偉大と判断したのかは不明だ。米経済で決めるのであれば、現在の株価は過去最高水準だ。  

それを、バンス氏が「猫おばさん」と民主党を十把一絡げにし、ウォルツ氏も共和党を「変人」とくくった。ウォルツ氏は、ハリス氏との最初の集会で「あいつらは、薄気味悪い。イエス、ものすごく変だ」とまで言って、大歓声を浴びた。  

気をつけなくてはならないのは、こうした決めつけ言葉は、決して精査された正確なものではない。民主党であれ共和党であれ、同じ人間だ。ただ政治的思想や支持する政策が異なる、という説明が完全に欠落し、片方は「猫おばさん」だらけ、他方は「変人」だらけとなればフェイクニュース並みだ。この現象はもちろん、トランプ氏が生んだものだ。しかし、民主党もSNSで若い人に拡散してもらい、Tシャツで盛り上げるためにその波にのってしまった。更なる分断につながりとても危険だ。と、書きつつTシャツをポチっていた。流行に乗り遅れたくない欲を刺激する危険性もある。(写真と文 津山恵子)

津山恵子 プロフィール
ジャーナリスト。専修大文学部「ウェブジャーナリズム論」講師。ザッカーバーグ・フェイスブックCEOやマララさんに単独インタビューし、アエラなどに執筆。共編著に「現代アメリカ政治とメディア」。長崎市平和特派員。元共同通信社記者。

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