この記事の初出は2024年7月30日
鎌倉は古都ではなく『スラムダンク』の聖地
鎌倉高校駅前の踏切に集まった若い外国人観光客たちは、クルマが来てもどこうとしないことが多く、そのために警備員が立つようになった。しかし、それでもクルマは大渋滞。地元民の不満は募る。また、江ノ電のほうは、混雑回避のためにダイヤを変えたり、地元の人間を優先乗車させたりするまでになった。
私が育った家は、鎌倉高校駅前の一駅先の腰越にあったので、この踏切は何度も通ったことがある。私の家からしばらく津のほうに行って、腰越中学前の坂道を登ると鎌倉高校があり、坂道を下るとこの踏切があって、目の前に海が広がっている。
たしかに、写真のアングルとしては絶好だ。
しかし、『スラムダンク』が海外で大ヒットするまでは、ここで写真を撮る外国人観光客などほぼいなかった。それが、先日、久しぶりに行ってみたら、平日なのに数十人はいて、その多くが若いカップルだった。
彼らにとっての鎌倉は、日本の古都というより、『スラムダンク』の聖地。もちろん、彼らは古都の名所も巡るが、最終目的地はここだ。
今年2024年は史上最多の3500万人と予測
なぜ、日本各地でこのようなオーバーツーリズムが起こっているのだろうか? ひと言で言えば、訪日外国人観光客が激増したからである。しかし、それだけが原因だろうか?
7月16日、森トラストは、2024年のインバウンド(訪日外国人)客数が前年比38%増の3450万人になるとの試算を発表した。これは、コロナ禍前を大きく上回る数字だ。
これまでインバウンドは2019年の3188万人、旅行消費額は2023年の5兆3065億円が最多だった。それを人数で約300万人、消費額で約30%(約6兆9200億円)上回るとしたのだから、本当にすごいことになってきたと言える
こうした状況に気をよくした岸田首相は、先日の「観光立国推進閣僚会議」で「2024年は3500万人、消費額8兆円も視野に入る」と表明し、調子に乗って、全国に35カ所あるすべての国立公園で、高級リゾートホテルを誘致する取り組みを進めるとぶち上げた。
しかし、そんなことでオーバーツーリズムの問題は解消には向かわない。富裕層向けの宿泊施設である高級リゾートホテルを増やすという発想自体が、ピント外れだ。
もっとも魅力的な国は空前のバーゲンセール中
日本のインバウンド人気を支えているのは、日本が世界的にも魅力的な旅行先であることに加え、超円安で旅行費用が激安になったからである。
旅行雑誌の『コンデナスト・トラベラーズ』の「もっとも魅力的な国」部門の読者投票(2023年)において、日本は第1位。アンホルト-イプソスの「国家ブランド指数ランキング」(2023年)でも、第1位である。
また、ニューヨーク・タイムズの毎年恒例の「52 Places To Go」(52の行くべき場所)では、2023年版で岩手県盛岡市が、2024年版では山口県山口市が選ばれている。
もはや、東京、大阪、京都などでなく、こうした地方都市まで人気になっているように、日本人気はピークに達している。
そこにやってきたのが、この3年間で進んだ超円安である。これでは、あらゆる国から日本に観光に来ないわけがない。なにしろ円はドル、ユーロばかりではなく、すべての通貨に対して安くなっているのだ。
つまり、日本観光はいま空前の大バーゲンセール中なのである。(つづく)
この続きは8月13日(火)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。
※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。