この記事の初出は2024年7月30日
じつはたいして稼げていない観光産業
バーゲン中とはいえ、日本の観光産業(インバウンド)は、いまや主要輸出品目のなかで、自動車産業に次ぐ稼ぎ頭である。
2023年の訪日外国人旅行消費額(観光庁発表)は約5.3兆円で半導体電子部品とほぼ同額を稼ぎ、この額は第1位の自動車産業の17.3兆円に次ぐ第2位である。
ただし、訪日客数の多さの割には収入額が多くないという問題がある。
「UN Tourism」(世界観光機関)の2023年のデータを見ると、国際観光客到着数ではフランスがトップ、国際観光収入ではアメリカがトップで、どちらもトップ10を示すと、次のようになっている。
[2023年国際観光客到着数トップ10]
( )の単位は百万人
1、フランス(100.0) 2、スペイン(85.2) 3、アメリカ(66.5)4、イタリア(57.2) 5、トルコ(55.2) 6、メキシコ(42.2) 7、イギリス(37.2) 8、ドイツ(34.8)9、ギリシャ(32.7) 10、オーストリア(30.9)
*日本は12位で3190万人
[2023年国際観光客到着数トップ10]
1、アメリカ1760億ドル 2、スペイン920億ドル 3、イギリス740億ドル 4、フランス690億ドル 5、イタリア560億ドル 6、アラブ首長国連邦519USドル 7、トルコ495億ドル 8、オーストラリア466億ドル 9、カナダ392億ドル 10、日本386億ドル
この2つのデータで、日本とアメリカを比べてみると、アメリカは観光客数では日本の約2倍なのに対し、観光収入はなんと約4.5倍もある。つまり、日本の観光産業は観光客数の多さの割には稼げていないのである。
これは、訪日客が中国などの近隣のアジア諸国が主体で、それも富裕層が少ないからではと思われる。現に、もっともおカネを落とす欧米富裕層の訪日客は少ない。
私は、このことが、オーバーツーリズム問題の原因の一つだと考えている。とくに中国人ツアー客のマナーの悪さ、傍若無人ぶりは目に余る。
「おもてなし」をアピールしすぎた弊害
日本は、「観光立国」を目指すにあたって「おもてなし」をアピールしすぎたという見方がある。「ほほ笑みの国タイ」のように「おもてなしの国ニッポン」を喧伝しすぎてしまったというのだ。
ダイヤモンド・オンラインの記事『なぜ日本は外国人観光客にナメられるのか?「おもてなしは文化」というウソの自業自得』(窪田順生、2024.6.13)は、こう述べている。
《外国人観光客はガイドブッグやネット・SNSで、ある程度日本文化の予備知識を入れてくるのだが、その中で「おもてなし」という言葉とともに日本人は「チップをもらうわけでもないのに、とにかくゲストをもてなすのが大好きなサービス精神の塊のような人たち」とかなり盛った説明をしていることも多い。
つまり、外国人観光客がやりたい放題やっているのは、「日本人っておもてなしの精神があって、外国人観光客が好きで好きでたまらないから、ちょっとくらいハメを外しても怒らないでしょ?」とタカをくくっているところもあるのだ》
さらに、記事の著者・窪田順生氏は、ズバリ、こう述べている。
《つまり、今日本全国の観光地で問題になっている「観光公害」というのは、世界に対して「お・も・て・な・し」などと言って、日本のホスピタリティの高さを過度にアピールしてしまったことも原因なのだ》
「おもてなし」は「見返りを求めない」
かつて私は、「おもてなし」を批判した。なんで、こんな割の合わないことをやっているのか?と書いたことがある。それは、東京オリンピックの招致プレゼンのスピーチで、滝川クリステルが「おもてなし」を強調したからだ。
彼女のプレゼンそのものは、聴衆の「情感」に訴える素晴らしいものだったが、次のひと言はまずかったのではないかといまでも思っている。
「東京はみなさまをユニークにお迎えします。日本語で『おもてなし』と表現します。それは訪れる人を慈しみ、見返りを求めない深い意味があります」
日本の「おもてなし」は、確かに「見返りを求めない」。しかし、それをこのような招致のスピーチで言ってしまうと、聞くほうは訪問客へのタダのサービスと捉えてしまう。
日本ではチップを払う習慣がないので、そのことを「おもてなし」というのだと誤解し、「おもてなし」は無償サービスだと思ってしまうのだ。
前述したダイヤモンド・オンラインの記事は、その意味で当たっている。(つづく)
この続きは8月15日(木)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。
※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。