共同通信
手つかずの豊かな自然が残る皇居は、5月中旬から7月初旬にかけてホタルが飛び交う。
約50年前、昭和天皇の意向で放流が始まり、現在までに自生する状況が育まれた。
都心の貴重な森で毎年、黄緑色の光が幻想的に舞っている。(共同通信=志津光宏)
▽復元プロジェクト
宮内庁によると、戦前の皇居内はホタルがたびたび確認されていた。
生物学者としての顔があった昭和天皇は戦後、当時を思い起こし、ホタルを自生させ、定着させたいと考えた。
宮内庁が研究者に相談し、復元プロジェクトが発足する。
皇居の水辺がホタルの生息に適した環境かどうかを調査した結果、水の流量や水質に問題はなく、含まれる塩素もわずかで、幼虫のえさとなる貝が見つかった。
こうしたことからホタルの自生が可能と分かった。
放流は1973年に始まった。
皇居・宮殿の南庭、乾門の近く、吹上御苑の茶屋「観瀑亭」付近の計3カ所にある水辺に、ゲンジボタルの幼虫計700匹を放った。
1981年に終了するまでヘイケボタルも含む1万6千匹以上の幼虫が放流された。
ホタルは定着し、1999年は1150匹以上を観測した。この頃から宮内庁職員向けの観賞会が催されるようになった。
▽生息範囲広がる
ホタルの数は減少傾向で、2010年以降は300匹台しか観測されない年もあった。観賞会は2011年を最後に実施されていない。
ただ、毎年必ず観測されており、現在は当初放流した3カ所のほか、皇居・生物学研究所の辺りや、一般に開放されている東御苑の一部でも見ることができる。今年は約600匹が確認された。
昭和天皇は香淳皇后と共に観瀑亭でホタルを楽しみ、上皇ご夫妻も在位中に観賞されたことがあるという。
宮内庁庭園課の吉田光好課長補佐は「少しずつ生息範囲が広くなっている。昭和から続くホタルが来年も見られるよう環境を維持したい」としている。