共同通信
福井県敦賀市のJR敦賀駅近くにある湿地「中池見湿地」を、長年守り続けてきた夫婦がいる。市内に住む笹木智恵子さん(78)と進さん(82)。次世代に引き継ごうと、液化天然ガス(LNG)基地建設や北陸新幹線建設計画など、度重なる湿地消滅の危機を乗り越えてきた。(共同通信=島田早紀)
中池見湿地は敦賀駅の北東約2キロにあり、広さは東京ドーム5個分ほどの約25ヘクタール。低山に囲まれ、キタノメダカやホトケドジョウなど絶滅危惧種を含む約3千種の動植物が生息する。地下には世界的にもまれな40メートルに及ぶ泥炭層が堆積。過去10万年分の気候変動を知る手掛かりになっている。
笹木さん夫婦が子どもを連れ、初めて湿地を訪れたのは半世紀ほど前。「一度たりとも同じ風景を見せない、一期一会の自然の面白さ」(進さん)に心を奪われた。
足しげく通っていた1992年、大阪ガスが湿地を埋め立て、LNG基地を建設する計画が明るみに出た。湿地を買い上げるトラスト運動の中心となり、全国から約600人の賛同を得て、2002年に計画中止を勝ち取った。
智恵子さんは全国各地に赴き、講演会や展示会で中池見湿地の重要性を発信する活動にも力を入れた。2012年にはラムサール条約に登録。ルーマニアで開催された式典に、進さんと出席した。
しかし、式典から帰国直後、再び湿地が危機にひんしていることが分かった。湿地の一部に北陸新幹線を通す計画が判明。生態系に与える悪影響を国土交通省などに訴え、ルートは2015年に湿地を避けるよう変更された。
今年3月、北陸新幹線が敦賀まで延伸。仲間との保全活動には一区切り付けるが、湿地付近に掘られた新幹線のトンネルの長期的な影響を確かめるため、夫婦で調査を続けるという。
「湿地がピンチに陥るたび、誰かが手を差し伸べてくれた」と智恵子さん。進さんは「10万年という湿地の歴史と比較すれば、この20年はまばたきより短い。今後も環境破壊の危機に直面するだろうが、その時にまた中池見を気にかけてくれる人が現れることを願う」と話した。