「トランプvs.ハリス」大統領選が暗示するアメリカ白人優位社会の終焉 (完)

この記事の初出は2024年8月13日

 副大統領候補にティム・ワルツ(ミネソタ州知事、60)を指名して態勢が整ったカマラ・ハリス(59)陣営の勢いが増している。「ハリス旋風」に脅威を感じたのか、トランプ前大統領(78)は個人攻撃を繰り返し、墓穴を掘りつつある。
 このままいけば、おそらくハリスが勝つだろう。ただし、もしそうなれば、「分断、分断」と騒がれているアメリカ社会の混迷は深まるのか? それとも落ち着くのか?
 いずれにせよ、アメリカで続いてきた「白人優位社会」は終焉を迎え、アメリカが新しいフェイズに入るのは間違いないだろう。

なぜ副大統領候補にワルツを指名したのか?

 正式に民主党の大統領候補となったハリスは、副大統領候補(ランニングメイト)を、ミネソタ州知事のティム・ワルツ(60)に決め、本格的な遊説に乗り出した。
(*ワルツより、ウォルツのほうが実際の発音に近いが、日本のメディアがワルツと表記しているので、そのままワルツとする)
 副大統領候補をめぐっては、何人かの名前が挙がったが、民主党は選挙に勝つために、もっとも無難な人間を選んだと言える。
 それは、なんと言ってもワルツがドイツ、スウエーデン系のルーツを持つ白人男性であることだ。これが最大のポイントで、これによりインド人と黒人の混血でカラードであるというハリスに、白人の有権者を引きつけることが可能になる。
 実際、アメリカの人種構成の約6割を占める白人は、政党や政策がどうであろうと、非白人を嫌う傾向がある。
 ワルツが、本命視されたペンシルベニア州知事のジョシュ・シャピロ(51)と違ってユダヤ系でなかったことも大きい。さらに、「中西部おじさん」(Midwestern Dad)「農家のバックヤードでのバーベキューで出会うような男」などと形容されるような庶民派だったこともある。これで、共和党が強い中西部の農村票も獲れると踏んだのだと言われている。
 また、彼がルテアン(ルーテル派教徒)で、自分を常に「ミネソタ・ルテール派教徒」(Minnesota Lutheran)と言ってきたことも指名のポイントとなった。

「BLM」の理解者であることもポイントに

 ミネソタ州ミネアポリスは、2021年5月、全米、いや世界中に衝撃を与えた白人警官による黒人男性圧迫死事件(通称「ジョージ・フロイド事件」)の発生地である。
 この事件を契機に、「ブラック・ライブズ・マター運動」(BLM)は一気に広まり、大きな政治問題になった。
 このとき、ワルツは同州の諸宗教の指導者らに協力を呼びかけ、正義・安全のためのコミュニティづくりを提唱した。このことも、副大統領候補に選ばれたことの大きなポイントだ。
 なにしろ、ハリスはビヨンセ(42)の「Freedom(フリーダム)を、選挙運動のキャンペーンソングに使ったからだ。この曲は「BLM」の象徴となった曲である。
 ミネソタはいわゆる「激戦州」(swing state:スイングステート)ではない。ただ、接戦州であり、ウィスコンシン、ミシガン、オハイオといった激戦州の白人に近い層を持つことから、トランプの白人支持層を切り崩す可能性がある。

州兵、高校教師から下院議員、知事に

 ちなみに、ワルツ自身は、ミネソタの出身ではない。
 ネブラスカ州の人口3500人ほどの小さな町ウエストポイントの出身で、17歳で陸軍州兵に入隊し、24年間従事した。そうして、退役軍人の教育給付金制度を利用して地元のシャドロン州立カレッジを卒業し、高校教師になった。
 1994年、教員時代に出会って結婚したグウェン夫人がミネソタの出身だったため、ミネソタに移り住んだのである。
 ミネソタ州に移住して教員を続けた後は、2007年に連邦下院選に出馬。それに勝利して下院議員を6期務め、2018年には知事選に立候補して当選した。現在、州知事として2期目を務めている。
 米メディアの紹介記事によると、下院時代は民主党内の中道派だったが、知事に再選された後はリベラル色を強めたという。プロチョイスを保証する州法の成立や、学校給食の無償化などに尽力した。トランプはワルツを、「ウルトラライト」(極左)と批判している。(つづく)

この続きは8月29日(木)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 

※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

 

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

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