第13回 小西一禎の日米見聞録 政治の季節に突入した日米両国 


第13回 小西一禎の日米見聞録

政治の季節に突入した日米両国 

 

秋は政治の季節だ。日本は、岸田文雄首相の不出馬表明を受け、自民党総裁選の号砲がけたたましく鳴らされた。同時期に行われる立憲民主党の代表選と合わせて、与野党のリーダーが選出された後、早期の衆院解散・総選挙になだれ込む公算が大きい。

一方、投票まで約2カ月あまりとなった米大統領選は、銃撃事件で勢いを増したトランプ前大統領が大失速。英断を下したバイデン大統領の後継者、ハリス副大統領の登場で、民主党は完全に息を吹き返した。米メディアによれば、激戦の7州で大接戦を展開しており、勝敗の帰趨は読み切れないものの、今度こそ「ガラスの天井」を打ち破り、初の黒人女性大統領が誕生する日は、現実的に近づいているのではないか。

 

キーワードは、若返り、女性

自民党の裏金問題を受け、岸田氏が派閥解散を表明した後に実施される今回の総裁選は、まさに「予定調和なき、未体験ゾーン」。派閥中心に展開されてきた総裁選では、派閥の締め付けが強く、時には各領袖が調整弁となってきた。ところが、一部を除く全派閥が解散した(とされる)現状では、派閥のしばりが弱まり、中堅や若手も立候補するのが容易になった。

現時点(8月22日)で、11人もの名前が挙がっており、これだけの候補者が乱立するのは極めて異例だ。うち、若手候補と女性候補が計5人に上るのは注目に値する。出馬には、党所属国会議員20人の推薦が必要なため、派閥なき未知の世界となった今、推薦人を巡る争奪戦が繰り広げられている。この先、人数はもう少し絞られるが、大胆に予想すれば、6~8人程度に収まるだろう。

日本の政治に決定的に欠けているのが、若手と女性の積極的な登用だ。毎年発表されるジェンダー・ギャップ指数では、政治分野の低得点が響き、低迷したまま。男性優位が続く日本において、永田町はとりわけ男性の優位性が際立つ社会だ。女性も男性同様の強さが求められ、結果的に同質性が極めて強まる。そして、長年にわたり年輩の男性議員が影響力を発揮してきた。

自民党内の一部には、トップの座を人気のある若手議員にすげ替えることで、刷新ムードを打ち出し、裏金問題に対する国民の不信感を一時的に払拭すれば、支持率はV字回復し、衆院選での勝利は揺るがないとの思惑がある。しかし、昨年発覚した裏金問題への怒りは今も継続しているのが実情だ。裏金問題に蓋をしたまま、単なる表紙を変えただけの疑似政権交代ではなく、金権体質との決別を示し、信頼回復に真剣に取り組むのか否か。在外有権者も含め、雰囲気に流されることなく、冷静に見極め、判断する必要があろう。

片や、1960年代に40代の大統領(ジョン・F・ケネディ氏)を選挙戦で選出した米国。一気に潮目が変わったのは、バイデン氏、トランプ氏の高齢者対決に嫌気が差し、どちらにも投票したくなかった国民にとって、ハリス氏が受け皿の役割を果たしつつあるからだと推察する。

日本と同様、キーワードは若返りと女性。59歳のハリス氏を若手と捉えるかはともかく、トランプ氏よりも約20歳若いのは、インパクトがある。来年カナダで開催されるG7サミットに臨む日米両国のトップは、果たして誰が務めているのだろうか。

 

米国生活では、遠慮なくアドバイス求めて

さて、後半は本号のテーマに沿った話を紹介したい。この夏、ニューヨークをはじめトライステート・エリアで、多くの日本人が新生活に踏み出したことだろう。私が渡米したのは、クリスマスを2週間後に控えた極寒の12月。新しいことを始めるには、最も適していない時期で、気分と季節は密接に関連するのを痛感した次第だ。

前回号でお知らせしたNY育英学園の家族同窓会は8月初旬、東京・代々木の会場に約250人が集まる大盛況だった。岡本徹園長をはじめ、子どもが大変お世話になったレスコビッツまり先生らに加え、ママ友、パパ友とも昔話に花を咲かせ、子どもの同級生の成長姿に目を見張った。昔話の中心は、米国での楽しい思い出。私が話した人は皆、かけがえのない米国生活を振り返り、「生活の立ち上げこそ困難だったが、軌道に乗ってからは、本当に楽しかった」と、口を揃えていたのが印象的だった。

8月上旬、夫の転勤で東京からニューヨークに子連れで移住した華岡すみれさん(40代、仮名)は「家と学校を決める際、大変参考になったのは、友人が紹介してくれた元ニューヨーク在住者の情報や経験談だった」と振り返る。「周囲の協力を積極的に求めるのは『黙っていても察してくれる』日本とは事情が異なる米国生活に移行する上で、良いウォーミングアップになった」と述べ、遠慮することなくアドバイスを求める姿勢が大事とエールを送る。

 

小西 一禎(こにし・かずよし)
ジャーナリスト。慶應義塾大卒後、共同通信社入社。2005年より政治部で首相官邸や自民党、外務省などを担当。17年、妻の米国赴任に伴い会社の休職制度を男性で初取得、妻・二児とともにニュージャージー州フォートリーに移住。在米中退社。21年帰国。コロンビア大東アジア研究所客員研究員を歴任。駐在員の夫「駐夫」として、各メディアに多数寄稿。「世界に広がる駐夫・主夫友の会」代表。専門はキャリア形成やジェンダー、海外生活・育児、政治、団塊ジュニアなど。著書に『妻に稼がれる夫のジレンマ~共働き夫婦の性別役割意識をめぐって』(ちくま新書)、『猪木道~政治家・アントニオ猪木 未来に伝える闘魂の全真実』(河出書房新社)。

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