第12回 教えて、榊原先生!
日米生活で気になる経済を専門家に質問
「目が離せない米国経済」
Q. この夏、ファストフード大手では5ドルのセットメニューが登場しました。この背景と、今後のインフレの見通しについて解説してください。
米国経済が急展開しそうな様相になっています。インフレのファンダメンタルズはFRBの金融政策の方が「大統領が誰であるか」より重要というのが一般的な理解ながら、今回の大統領選はインフレ見通しにも多少の影響を及ぼすかもしれません。
ここ数年のインフレ率は、コロナ禍における財政政策やウクライナ戦争に絡む供給制約などが大きく影響しており、金融政策外の財政、外交、国際貿易といった政策なども来年以降の物価動向に寄与する要因となり得るからです。その意味では、「もしトラ」「ほぼトラ」「もしハリ」と急転している選挙戦からも目が離せませんね。
さて、大手ハンバーガーチェーンによる5ドルセットメニューは日本でも報道されたほど注目を集めました。端的に言えば、中低所得者層による消費減退の兆候が広がりつつあるのをファストフード業界が機敏に感じ取って対応策を打ったということでしょう。初旬に世界的な株価一時急落の引き金となった7月の雇用統計の弱さも、こうした景気の状況変化を反映した可能性があります。
前回(6月28日)のコラムで、中間層の購買力を支える金融サービスという構図が米経済のポイントと記述しましたが、FRBによる金融引き締め(利上げ)の影響がボディブローとなって効き始めているようです。借り入れコスト上昇でクレジットカード利用のペースが落ち購買力が弱まるなか、2~3年続く顕著な価格上昇に対して消費余力がなくなり、節約志向が芽生えています。5ドルメニューの登場という「価格革命」的な“お値打ち“商品の提供は、値上げ続きだった価格戦略の持続性に疑いが生じた状況。つまり、消費者動向のトレンドが転換していると考えられます。
ただ、こうした購買行動の変化やそれに対する外食産業の一部に見られる値下げが、消費者物価全体のインフレ率にも大幅な鈍化をもたらす兆しなのかは難しいところです。冒頭にインフレ動向には金融政策が重要と書いたように、インフレ率は様々な要因が合わさって形成されるため、経済活動全般に影響を及ぼす金融政策がカギとなります。足元の消費の弱まりや雇用状況悪化の兆しに対するFRBの反応こそが、今後のインフレ見通しを決定的に左右するでしょう。
以前に触れましたが、FRBは2%というインフレ率目標達成のためには景気に悪影響が出ても止むなしという考え方を示しました。とはいえ、経済を破綻させたくないのも間違いではなく、景気の耐久力とインフレ圧力の根強さのバランスを適切に見極める非常に難しい金融政策のかじ取りが求められる局面です。積極過ぎる金融緩和はインフレ目標の達成を犠牲にしかねず、消極過ぎれば経済をリセッションの危険にさらします。
こうした流れからは、2023年12月22日のコラムに書いた「2024年はリセッションになるか否かが大きな焦点」という展望が、まさに年終盤へ向けての注目点になりそうです。一方、日本でも日銀の利上げが最悪のタイミングになってしまった可能性もあり、雲行きがちょっと怪しくなりました。両国とも予断を許さない状況と言えるかもしれません。

先生/榊原可人(さかきばら・よしと)
SInvestment Excellence Japan LLC のマネージング・パートナー。主にファンド商品の投資仲介業務に従事。近畿大学非常勤講師(「国際経済」と「ビジネスモデル」を講義)。以前は、米系大手投資銀行でエコノミストを務めた後、JPモルガン・アセット・マネジメントで日本株やマルチアセット運用業務などに携わる。
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