共同通信
モンゴルの大草原を小学生らが乗った数十頭の馬が駆け抜けた。2024年7月中旬、モンゴル最大のスポーツの祭典「ナーダム」で行われた伝統の馬レース。地平線まで遮る物もない青空の下、ゴール前に待ち受けた多数の観客から大歓声が湧き上がった。(共同通信=芹田晋一郎)
馬の体格チェック後、レース開始だ。馬の年齢別に複数レースが行われ、長いと往復50キロ以上もの距離を走る。馬の負担軽減で体重の軽い子供が騎手を務め、くらも鐙もない馬を手綱一本で巧みに操る。
馬レースはモンゴルで国民的な人気を誇る。5位以内に入ると、首都ウランバートルの競技場で大統領から直接表彰され、全国に名前がとどろく。二つのレースに出場し、3位と5位に入った小3のプレブダワーさん(9)は「お父さんも喜んでくれたし、すごくうれしい」と笑顔を見せた。
3歳の頃から馬に乗っているプレブダワーさんは、小学校が夏休みに入った6月から、首都郊外の草原に建てたゲル(移動式住居)に住み込み、連日3時間超の特訓を積んできた。著名な調教師、タミルさん(33)の下に全国から選ばれた10人の子供が集まり、馬の世話係や食事係など計20人以上で共同生活を送る。
ナーダムに参加する馬の所有者が調教師に馬を預け、関わる全員分の生活費や馬の餌代負担に加え、騎手を務める子供たちの家族の生活補助や学費支援まで行っている。馬主はレースに勝てば賞金を得られる上、入賞馬の子は高額で取引されるため「一獲千金」を狙っているのだ。
かつては馬レースで悲劇も起きた。あまりに幼い子供が騎乗し、レース中の落馬で死亡したり重傷を負ったりする事故が多発。政府は対策として2022年5月、騎手は7歳以上に制限し、ヘルメットや腕と脚などのプロテクター着用を義務づける法律を制定した。
将来はタミルさんのような調教師になりたいというプレブダワーさん。「レースで先頭を走ると、前を走る馬が蹴り上げる泥もかぶらない。次は優勝したい」