「トランプvs.ハリス」大統領選が暗示する アメリカ白人優位社会の終焉 (中2)

この記事の初出は2024年8月13日

「インド人なのか? それとも黒人なのか?」

 7月31日、シカゴで開催された黒人ジャーナリスト協会のイベントに招かれたトランプは、ハリスはこれまでアジア系アメリカ人としてのアイデンティティを強調していたが、最近になって「黒人になった」と言い出した。
「何年か前まで、彼女(ハリス)が黒人だとは知らなかった。彼女はなぜか黒人になって、そしていま、黒人として知られたいと思っている」と、トランプは言った。
「だから私にはわからない。彼女はインド人なのか? それとも黒人なのか?」
 トランプは、カマラが黒人という属性を利用して大統領になろうとしていると揶揄したかったのだろう。これまで彼女を「DEI vice president」と呼んできたのだから、これはトランプにとって当然の成り行きだ。
 「DEI」(Diversity:多様性、Equity:公平性、 Inclusion:包括性)は人を雇ったり、登用したりするときの「ワク」で、「DEI採用」と言われると、それは能力と関係なく採用されたことを示唆する。つまり、カマラは「DEI採用」で副大統領になったわけで、これは「無能なバカ」と言っているのと同じになる。

「人種差別主義者」と言うより「白人優位主義者」

 今回の大統領選の争点は、「移民問題」「中絶問題」(プロライフかプロチョイスか)などにあると言われてきたが、これまでの経緯を見てくると、本当の問題は「民族・人種」ではないかと思う。
 つまり、「白人vs.非白人」である。
 トランプ登場以来、アメリカ社会の「分断」(divided)が大問題になってきたが、その根底にあるのは、やはり人種問題だ。
 トランプのこれまでの言動を見てくると、彼は、明らかに「人種差別主義者」(racist)であり、「女性差別主義者」(misogynist)でもあって、そのうえ生粋の「白人優位主義者」(white supremacist)である。
 彼は、人種差別というよりも、白人以外は人間ではないと思っている。前々回の大統領選挙時、トランプは、メキシカンは「麻薬中毒患者でレイプ魔」と言い放った。このことことで、彼が非白人を完全に見下していることは明らかだろう。

「肥溜(shithole)のような(汚い)国の連中」

 もう過去のこととされてしまったが、2018年1月の超党派の議員との移民問題ミーティングでは、トランプは当時、大問題になった発言を繰り返した。
 このときは、民主党議員の1人が人道的受け入れの一時的な在留資格(TPS:Temporary Protected Status)でハイチにふれたとき、「なぜハイチ人がもっと必要なんだ。追い出せよ!」と切り出し、ハイチのほか、エルサルバドル、ニカラグアなどの中米・カリブ諸国やアフリカ諸国の人々を指して「肥溜(shithole)のような(汚い)国の連中」と言ってのけたのである。
 さらにトランプは、続けて「ノルウエーのような国からもっと連れてくるべきだ」と言った。中南米人はノーで、欧州の白人はOKなのである。
 このことで、トランプが「白人優位主義者」であることが、より鮮明になったと言えるだろう。(つづく)

この続きは9月5日(木)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 

※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

 

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

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