「トランプvs.ハリス」大統領選が暗示するアメリカ白人優位社会の終焉 (中3)

この記事の初出は2024年8月13日

非白人女性議員4人に「もといた国へ帰れ」

 トランプの人種差別発言と女性差別発言は、枚挙にいとまがない。
 2019年7月、トランプは民主党の非白人女性議員4人に対して、「もともといた国に帰り、犯罪まみれの国を立て直すのを手伝ったらどうか」と言った。
 4人とは、アレクサンドリア・オカシオ・コルテス議員(ニューヨーク州選出、34)、ラシーダ・タリーブ議員(ミシガン州選出、48)、アヤンナ・プレスリー議員(マサチューセッツ州選出、50)、イルハン・オマール議員(ミネソタ州選出、42)。
 オカシオ・コルテスら3人は、順にプエルトリコ系、パレスチナ系、アフリカ・セネガル系だが、アメリカ生まれだから帰る国などない。また、オマールはアフリカ・ソマリアからの難民だ。
 このとき、トランプは「ナンシー・ペロシは喜んで、すぐに無料渡航の手配してくれるはずだ!」とも言った。
 ナンシー・ペロシ(84)は、民主党の重鎮で下院議長(カリフォルニア州選出)。美貌で有名だが、トランプはこう侮辱したことがある。
「彼女が議場にいるのを見たか? 本当に気持ち悪い。あれだけ(美容整形)手術をしたらな」
 また、民主党の上院議員(マサチューセッツ州選出)で、かつて宿敵とされたエリザベス・ウォーレン(75)に対しては、「Pocahontas」(ポカホンタス)と呼んで揶揄した。
「ときにポカホンタスと呼ばれる間抜けなエリザベス・ウォーレンはキャリアアップのため先住民のふりをした。極めつきの人種差別主義者だ」
 人種差別主義者は、彼自身ではなかろうか。

非白人人口の増加に白人が抱く恐怖心

 トランプが、人種差別発言をくり消すのは、それによって白人の支持率が上がると考えているからだろう。しかし、そういう計算ももちろんあるだろうが、それ以上に彼自身が根っからの白人優位主義者だからだ。
 いまのアメリカの白人層に共通するのは、非白人人口の増加(移民を含む)によって、「白人優位社会」が壊れてしまうという恐怖心だ。
 これは、ラストベルトのトランプを岩盤支持する白人層にとくに強い。その恐怖心が、移民排斥に向かうのである。
 2021年に発表された国勢調査(2020年)によると、ヒスパニック(中南米系)を除く白人の人口は、前回の2010年調査から2.6%減少した。これを伝える米メディアは白人人口が減少したのは1790年の調査開始以来初めてのことと、大々的に報道した。また、全人口に占める割合も57.8%となり、初めて6割を割り込んだ。

「WASP」を頂点とする白人社会が崩れる

 アメリカの国勢調査は10年に1度実施される。
 それなので、次回は2030年になるが、そのときは、白人の割合は5割を切っている可能性がある。
 白人人口の減少は、出生率の低下が主な原因だ。それに対して、ヒスパニックなどの非白人の出生率は高い。すでにカリフォルニア州では、ヒスパニックの割合は39.4%となり、白人の34.7%を抜いている。
 アメリカを建設したのは、欧州から渡った新教徒たちである。彼らに続いて英国から「WASP」(ホワイト・アングロサクソン・プロテスタント)が続々と移住し、白人社会をつくっていった。
 「WASP」に続いて移民してきた欧州系白人、スコットランド系、ウェールズ系、ケルト系から、オランダ系、ドイツ系、北欧系、ラテン系などは、みな「WASP」を手本とし、その文化と社会に溶け込むことで、アメリカ白人社会が形成された。
 黒人は奴隷として白人が連れてきたので、この社会の枠外。中南米からのヒスパニック系、中国、インドなどのアジア系は新移民なので、やはり枠外に置かれてきた。
 アメリカには1965年に廃止されるまで「移民制限法」があったので、この白人優位社会はずっと続いてきた。しかし、いま、それが崩れつつある。(つづく)

この続きは9月6日(金)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 

※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

 

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

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